AINプログラム:村を支えるボランティアを育てていく ~私たちの健康は私たちの手で~

ISAPHが活動している村では子どもたちを取り巻く低栄養の問題があります。生まれて数日の赤ちゃんにもち米を与えたり、一種類のおかずと米だけで食事を済ませたり、食事の代わりに駄菓子を買い与えるなどの習慣が見られます。これらの問題は、怪我・病気の治療とは違い、第三者の努力だけで解決することができません。住民自身が子どもたちの栄養状態に関心を持ち、現状に気づき、改善のために行動していくことが必要です。そのためには、必要な食材を確保できる環境があることに加えて、母親(養育者)が適切な知識を身につけ、行動に移すことが求められます。そして、近所に同じ課題を抱えた母親や、一緒に行動する仲間がいることが大切であるとISAPHは考えています。

2017年度から公益財団法人味の素ファンデーションによるAINプログラムのご支援を受け、新しくスタートした「村落栄養ボランティア(VNV:Village Nutrition Volunteer)育成事業」は、簡単に言うと村の中に食事・栄養のリーダーを作り、支援する取り組みです。ラオスの農村部の住民は定期的な現金収入の手段がなく、自身の生活を切り盛りするのに精一杯ですが、一部には「自分の村の子どもたちの栄養の問題を何とかできないか」と思っている住民もいます。ISAPHはそのような人々を集めて研修を行い、VNVとして育成する事業を始めました。育成したボランティアは、正しい知識・技術を身につけ、日常生活の色々な場面で、住民に食事・栄養の情報を伝えていけるようになることが期待されています。昨年末に第1回のVNV育成研修を実施したところ、12名のボランティア研修生の枠はあっという間に埋まり、このような機会が訪れることを心待ちにしていたように感じました。

今回の研修で参加者は、お揃いのエプロンに身を包み、子どもが健やかに成長するために必要な食事・栄養について学びました。また、正しく知識・技術を学ぶために、保健行政の垣根を越えて専門的な知識を持つ講師を招待しました。例えば、カムアン県職業訓練校からは、調理科の先生を招いて食事を美味しく味付けする方法を教えていただき、調理実習も行いました。さらにISAPHが以前から一緒に活動している食用昆虫科学研究会の佐伯真二郎先生にも、昆虫の栄養学的な長所や昆虫を使ったレシピについて説明していただきました。ラオスの人々は日頃から昆虫を食べていますが、その栄養素についてはあまり考えたことがなかったようで、参加者は新鮮な興味をもって講師の話を聞いていました。参加者が理解できるように、ゆっくり進めていったことで4日間という長い研修となりましたが、皆、非常に積極的で、大盛況のなか本研修を終えることが出来ました。今後も定期的に研修を受けながら、村のボランティアと住民が協力して食事・栄養の問題を解決できるように、ISAPHとサイブートン郡保健局で支援していく予定です。

日本でも戦後は食糧難があり、今のラオスと同じように子どもたちの栄養状態に深刻な問題が生じた時期があります。副題にある「私たちの健康は私たちの手で」は、そのような中で生まれた、食を通じて健康づくりを行うボランティア「食生活改善推進員」たちのスローガンです。自分たちの食事・栄養の問題は自分たちで解決しようと、地域の主婦が中心となって活動を始めたとされています。ラオスでは食事・栄養に関するボランティア活動はあまり活発ではありませんが、両親が子どもの成長を気に掛けるという想いは、みんな同じです。今回の参加者が見せてくれたように、ISAPHが何かきっかけを作ることで、ラオスの人々の「自分たちでできること」の発見に繋がるかもしれません。私たちは、そのような住民や行政の力を引き出し育てていけるよう、パートナーシップを大切にして活動を進めています。

ISAPH LAOS 佐藤 優

調味料の特徴や使い方を説明する
職業訓練校のアムカー先生

調理実習の様子

佐伯先生の講義の様子

これまで食べたことがない昆虫の
調理方法に驚く研修生たち

離乳食の調理実習後、
試食をする村の母子たち