以前よりお伝えしておりますように、ISAPHラオス事務所では、2017年4月より、公益財団法人味の素ファンデーションのご支援を受けて、母子栄養改善事業の強化に向けた新事業を展開しています。その一つが、食用昆虫科学研究会の理事長の佐伯真二郎先生に協力を仰ぎ、ラオスの昆虫食文化の後押しをする食用昆虫養殖事業になります。佐伯先生には、2017年12月に2度目の訪問をしていただき、現地で約1カ月にわたる情報収集を行いました。
ISAPHニュースレター第28号で、ラオスの人々にとって昆虫は一つの「食材」で、市場で買ったり、自然のものを捕ったりして食べていることをお伝えしました。実はラオスでは、既に食用昆虫の養殖は行われていて、例えばコオロギやカエル(正確には両生類ですが)などについては、仕事として実施している人もいます。しかしながら、これらについては一つの重要な問題があります。それは飼育に際してランニングコスト(運転資金)がかかることです。そんなの当たり前だろう?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、現金収入の手立てが非常に少ないラオスの農村部に暮らす住民にとって、このことは大きな問題なのです。なぜなら、もし気候の変動や何かの失敗で飼育している昆虫が全滅した場合、それまで飼育にかけたコストを取り戻す手立てがありません。次の飼育に向けて卵を購入したり、餌を購入したりすることが出来ず、結局、養殖を止めざるを得なくなる場合があります。つまり昆虫養殖は、ある程度、資金に余裕のある人たちが副業として実施する場合が多いのです。そのような現状が分かり、比較的貧しい住民でも養殖に取り組めることを条件に、佐伯先生が着目した昆虫はバッタでした。なぜならバッタは、草だけで必要な栄養を満たすことができ、餌の購入などのランニングコストがかからないからです。とはいえ、バッタの養殖技術はラオス国内では見当たらず、住民が養殖可能な方法について情報がありませんでした。どのような種がどのような産卵パターンを有しているかも分かっておらず、そこから手探りで情報を集めるしかありませんでした。
佐伯先生には、2度にわたるラオスへの訪問によって飼育に適すると予想されるバッタをいくつか絞り込んでいただき、いよいよ2018年からは飼育技術の開発がスタートします。さらにはバッタ以外の昆虫養殖や、昆虫養殖による生計向上支援なども考えていく予定です。これらを乗り越えることができれば、実際に住民に飼育方法を伝え、住民が自分たちで昆虫を養殖し、売ったり食べたりして、住民の栄養改善の方法を一つ増やすことが出来ます。そのような意味で、今年の活動は、これからの事業の成功を左右する非常に重要な局面であると言えます。ラオス行政の保健スタッフを育成したり、村の保健ボランティアを教育したり、既存の方法による事業を展開しつつも、新しい方法でも住民の栄養改善を目指していくISAPHの試みに、ぜひ興味をもっていただけましたら幸いです。
ISAPH LAOS 佐藤 優
養殖候補のひとつである、ツムギアリの巣。
ラオスでは蛹を好んでよく食べる
試験飼育中のバッタが産卵しているところ
佐伯先生とラオス人職員による
フィールドワークの様子