マラウイやラオスだけでなく、日本においても特に支援を必要とする家庭はあります。
例えば、両親を亡くした子どもや極度の貧困などの理由により、子どもや家族が自分たちの力では解決することができない健康上の問題を抱えていることがあります。
このような家庭では、健康的な生活を営めないだけでなく、命の危険にさらされる場合も少なくありません。明日ではなく、「今」、解決しないといけない健康問題に対処するだけの時間を待つ余裕がないことから、特別な支援を必要としています。
(特に、子どもの栄養に関しては、明日や来月ではなく、「今」、必要な食べ物を摂取しないと、栄養素の不足によって失った発達の機会を取り戻せない場合があります)
ISAPHが目指す国際協力は、マラウイやラオスの人々が「自分たちの力で健康になること」ですから、基本的に物を与えることで問題が解決できるとは思っていません。自分たちの力で、健康になる手段を獲得する方法を見つけ出せるように支援しています。
しかし、特別な支援を必要とする家庭では、貧困等による悪循環により、自分の力では問題を解決することが困難な場合もあります。
そのような時は、まずは緊急事態を脱却するまで、特別な支援を展開することがあります。
私たちが新しい地区で活動を始めて、半年くらい経った時、一つの家族と出会いました。2カ月の男の子でしたが、成長モニタリングをみると体重が年齢に比べて、全く増えていないのです。気になったので、家を訪問し、事情を聞くことにしました。
話を聞くと、母乳が出なくなったので「コンデンスミルクを薄めたもの」を母乳の代わりに与えているとのこと。私たちがコンデンスミルクは母乳のように栄養素が十分に含まれていないので、できれば粉ミルクを与えるように伝えたのですが、「そんな高価なものは買えない」とのこと。この家庭は、若い夫婦と高齢の祖母の4人家族で、家族を支えるだけの十分な収入がありませんでした。
子どもの健やかな発達を促すには、月に4箱の粉ミルクを購入する必要がありましたが、家族のわずかな収入では、それを購入するだけの余裕はありませんでした。
しかし、両親と相談しているうちに、「1箱なら購入することは可能だ」ということが分かりました。ISAPHは、村長や保健局の医療従事者とも相談し、この子どもを支えるため、粉ミルクを支給することに決めました。
何とか工面した収入で、1箱は両親が粉ミルクを購入し、ISAPHが残りを支援することとしました。こうすることで、ただ支援を受けるのではなく、親は親のできることを精一杯行うことで、子どもの成長に、一緒に向き合うことができると考えたからです。
体重の増加は、成長曲線を大きく外れていましたが、粉ミルクを与えることで何とか基準となる体重に近くなっていきました。子どもの年齢が6カ月を過ぎると、子どもはミルクだけでは必要な栄養素が足りなくなりますから、定期的に家庭訪問を行い、離乳食の作り方も個別に指導していきました。
一度に大勢に行う健康教育は、とても効率が良いですが、一人ひとりの家庭の事情や理解度に合った説明をすることは困難です。ですから、特別な支援を必要とする家庭に対しては、家庭訪問などによってそれぞれの家庭が持っている問題に合わせて、解決方法を一緒に考えていきます。
産まれてから2カ月間、コンデンスミルクで育ったこの子どもは、粉ミルク支援を通じて大きな病気に罹ることなく成長することができました。今でも、ISAPHの活動に母親と一緒に参加して、元気な姿を私たちに見せてくれています。
ラオスにおいて、このような家庭は多くはないですが、母親に教育歴がなく遠慮をしたり、誰にも相談できずに住民の陰に隠れてしまう場合も少なくありません。ISAPHは、活動の対象となる住民が「取り残されることなく」、健康になる機会を得られるように、一人ひとりに目を配り、草の根活動を展開しています。
マラウイでは、母親や子どもに栄養上の問題を抱える家庭で、自身で解決が困難なケースに対して、栄養補助食品(日々の食事で不足しがちな栄養素を含む“大豆”や“油”などの食品)を配布する活動を行っています。
栄養補助食品を通した支援は、2つの効果があると実感しています。
1つ目は、1日に必要なカロリーを満たせることで、急性の低栄養を脱する/改善できること(問題解決)。
2つ目は、自分が準備した食事で、自身または家族の健康状態が改善していく様子を実際に経験できること(エンパワーメント)。
一つのストーリーを紹介します。
2019年の8月末に生まれた、プレシャスは出生時の体重が2.4kgと少し小さめの男の子でした。出産後、母親から「母乳が出ない」という訴えがあったため、1ヶ月半入院し、子どもには粉ミルクを与えることになりました。退院が近づいたころ、体重は3.3kgまで増えていたため、「引き続き、粉ミルクを買って与えるように」と医療従事者が説明し、プレシャスと母親は家に帰りました。
ところが、生後3ヶ月目になる12月、成長モニタリングで子どもの体重を測ったところ、3.9kgと11月の体重と全く変わっていませんでした。私たちは驚いて、すぐに母親に話を聞いたところ「母乳も出るようになったので、粉ミルクはやめてしまった」とのことでした。母親と家族にとって、粉ミルクを買い続けることは、経済的に大きな負担になっていたようです。
しかし、もし栄養の高い母乳がちゃんと出ていれば、また子どもが元気に母乳を飲むことができていれば、体重が増えないとは考えられにくいです。マラウイ人の医療従事者が確認したところ、子どもの問題とは考えにくかったため、母親の栄養状態が母乳に影響しているのではないかと判断されました。ISAPHは医療従事者と相談して、栄養のある母乳が十分に出るように、母親に低栄養治療(栄養補助食品の配布)をする事にしました。
配布する栄養補助食品はできるだけ高い栄養素を含み、且つ安価で、家庭で手に入りやすい食材(大豆粉・ピーナッツ粉・油)を選んでいます。なぜなら、支援を通じて栄養について学び、その後、自分たちで同じように食事・栄養を摂れることを狙っているからです。
栄養補助食の配布を開始し、食事の内容が変わったことで、母親の栄養状態は良くなっていきました。家庭訪問も実施し、栄養補助食以外でも食事や栄養に気を使ってくれるようになりました。さらに母親も、母乳が出やすくなるよう水分を多く摂るなど努力をしていました。しばらくして「母乳の出が良くなった」と報告を受け、食事を通じて自分の栄養状態が変わったことを実感できている様子が分かり、とても嬉しかったです。
さらに嬉しいこともありました。子どもが6カ月以降になった時に、離乳食として、栄養補助食品に配合していた同じ食材を取り入れてくれたことです。体重は少しずつ改善し現在正常範囲に入りつつあります。
家庭訪問で訪れた際にお母さんは、「今は子どもが元気に育ってくれてとても幸せです。もし子どもの体調が悪かったら私も元気でいられません。これからも子どものために栄養のある食事を作っていきます。」と言って、プレシャスもお母さんも素敵な笑顔を見せてくれました。
低栄養は体が小柄であっても一見元気に見える事もあり、あまり関心を持たれない場合があります。その為、グループに向けた栄養指導だけでバランスの取れた食事摂取の必要性を理解してもらい、実際の行動を変えることは時に難しいことです。
この実体験からの学びは行動を変えるきっかけとなり、次の子どもが生まれたとしても、栄養のある食事を摂るように気を付けてくれると思っています。また、この学びを他のお母さん達に伝えてもらう場を設ける事で、さらにより多くの人がこの実体験を共有し、栄養の知識が広がるきっかけにもなります。
特別な支援を必要とする家庭の背景はさまざまです。栄養の問題一つをとっても「お金がない」だけではありません。
一人ひとりの家に訪問して、特別な支援を行うことは費用対効果の悪い方法かもしれません。しかし、誰もが取り残されずに、健康を「自分のもの」と理解し、健やかにいるためには、それぞれの家庭の状況に目を向け、原因に応じて、指導内容を変えていく必要があります。
そのような丁寧な保健活動が、ISAPHの「想い」を反映しています。一時的な支援だけで終わらず、「自分の健康は自分で守る」ことができるように住民自身が変わっていけるように、その基盤を作れるような取り組みを行っています。
生後9ヶ月
老子の格言で、『授人以魚 不如授人以漁』という言葉があります。
これは、飢えた人に魚を与えるのではなくて、魚の釣り方を教えるならば、これから先も自立していけるというものです。しかし残念ながら、人はすぐには変わることができませんし、特に子どもの場合、その変化を待てるほど猶予が無いことも少なくありません。ISAPHは、物資を渡すだけの支援は最小限にとどめていますが、子どもたちの「今」を守るためには、物資を渡すことが必要な場合もあると考えています。
そして、これらの活動には、物資を継続的に購入する必要があるため、どうしても資金が必要になってしまいます。粉ミルクや子どもの栄養補助食品などの購入にかかる一部の資金は、iサイクルからいただく寄付によって行われています。もっと多くの人に支えていただけることができれば、目の前で栄養不良に苦しむより多くの子どもたちに手を差し伸べることができます。
私たちの活動に共感いただければ、いつでもご支援をお待ちしております。
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