昨年、2018年末にVNV(Village Nutrition Volunteer:村落栄養ボランティア)の第2期生を育成するための研修がスタートしました。第1期生の姿を見て「私たちも勉強してみたい!」と思ってもらえたのか、募集した12名はスムーズに候補が決まりました。食事や栄養のことに興味のある住民が増えてきたのかと思うと、とても嬉しく思います。ただ、研修の中では、知識が正しく浸透していないことに気づくエピソードがたくさんありました。今日は、その研修の中で私たちが感じた、住民のニーズについてお話しようと思います。
日本でもラオスでも、健康教育や保健指導が目指すところは、住民がより健康的な生活になるために行動を変えていくこと(行動変容)が目的です。喫煙を例に挙げると、喫煙による病気のリスクなどについて説明し、禁煙に対する意識づけをしていくことや、実際に禁煙に挑戦してみたりすることがあげられます。私たちはこれまで、妊娠期から始まる子どもの栄養状態を改善するために、栄養素について話したり、食事のバランスについて話したりしてきました。すべてではなくても、きっと何人かの住民は食事や栄養に関心をもって、私たちの話を聞いてくれていると思っていました。しかし、この度の研修の中で、関心のある母親であっても「1歳4カ月の子どもに甘い清涼飲料水(500ml)を毎日2本も与えている」といった誤った生活習慣があることを知りました。その母親は、きょとんとして「子どもが水分を取るのは必要なことでしょう?」と言わんばかりの表情でしたが、日本で研修を受けたラオス人が清涼飲料水にどれだけ砂糖が含まれているか、研修中の写真を使って説明して、やっと母親は自分がどれだけ子どもに糖質を与えていたかに気づくことができました。
そうです。食事の前に手洗いを行うことや、病院で分娩するように行動を促すことは、非常に具体的で、実施するか・しないかですので、住民にとっても分かりやすいものです。もしくは、緑黄色野菜が体に良さそうなことや油の多い食事がなんとなく体に悪いであろうことはイメージしやすいかもしれません。しかし、「正しく」食事や栄養を摂ることは、一つひとつの食材について説明できないので、ついメッセージが抽象的になり、思考の応用を必要とした話になっていたということに気づきました。そのため、この度のVNV研修生には、より具体的に、住民の生活に沿って分かりやすく、食事や栄養について話をしていくことがニーズとして見つかりました。
加えて、このエピソードからは、農村部においても住民の経済状況がだんだんと良くなっていることを感じさせます。ラオスではペットボトルの清涼飲料水は5,000キープ(約70円)ほどで売られています。いくら子どものためにとはいえ、農村部の住民が日常的に購入するのは簡単なことではありません。とはいえ今では、そのような世帯が、ラオスの経済成長に伴って少しずつ増えてきているようです。現金収入が増えて、今まで買うことができなかった食品に手が届くようになるのは、生活を豊かにするという面では歓迎できるものです。しかし、農村部の村にある商店の多くは、保存のきくインスタント食材や清涼飲料水、駄菓子などが中心に並んでいます。新鮮な野菜や果物、肉などを売っている市場は大きな街にしかないため、車やバイクが必要です。そのため住民は、健康的な食材よりもジャンクフードにアクセスしやすい環境に置かれており、「子どもが好むから」という理由でお菓子やジュースばかり与えていても健康的な食生活は作れません。私たちは、そのような住民の生活環境や経済状況についても目を配りながら、住民が気付いていなくても、専門的な立場から食事や栄養のニーズを見出し、どのように伝えていくか考えていかなくてはいけません。
このように住民のニーズを肌で感じながら活動ができるのも、住民と腹を割って話し合える関係があってこそです。まだまだ課題はたくさんありますが、ISAPHラオス事務所はラオスの人々の暮らしを尊重しつつ、これからも住民に寄り添って、支援を続けていきたいと思います。
ISAPH ラオス 佐藤 優
手洗いのデモンストレーション
真剣に講義を聞く研修生
実習を通して具体的に調理を学ぶ
調味料について、実物を見せながら
説明する様子
生鮮食品よりもジャンクフードが多く
陳列される村の商店