食事・栄養の問題を日本の経験から学ぶ  ~2018年度本邦研修より~

2018年11月~12月にかけて、ラオス人保健医療人材の育成・強化のための本邦研修を開催しました。この研修は、現在ISAPHラオス事務所が展開している、村落保健ボランティア(VNV:Village Nutrition Volunteer)の活動に関連して、日本で実施されている食事・栄養にかかる活動を視察し、今後の活動の示唆を得ることを目的として実施されました。今日は、この研修についてお話したいと思います。

私たちが活動している村で、妊娠期から2歳までのいわゆる「最初の1,000日」の間に、どのような食事・栄養の問題が起きているかは、以前よりお伝えしているところです。そのような問題を解決する手段の一つとして、誤った情報を修正し、正しい情報を伝えることがVNVの役割として求められています。しかし、そのためには、VNVの活動を支える支援が必要です。日本では、住民やボランティアへどのように食事・栄養についての正しい情報を伝えているのでしょうか。今回、ラオスより2名の研修員を招き、本邦研修を開催しました。

 

①地域のボランティアの活動を支えることで情報を伝える

福岡県小郡市では、総合保健福祉センター「あすてらす」に足を運び、小郡市食生活改善推進会(通称:健母の会)の活動を教えていただきました。健母の会はボランティア団体ですが、食事・栄養の知識や技術について住民へ正しく伝えることができるように、ボランティアとなった後も年に2回研修を行っているとのことでした。研修の計画や実施は小郡市と協力して実施しており、保健師や栄養士から専門的なアドバイスを受けながら地域での活動を主体的に展開していることを知りました。当日は、健母の会のメンバーを対象とした研修(調理実習)も見ることができました。ラオス人研修員も実習に参加し、ボランティアの知りたい、伝えたいという熱い想いに直接触れることができました。

 

②専門的な知識を分かりやすくかみ砕き、専門職が直接住民へ伝える

福岡県北九州市では小倉北区役所に伺い、栄養士が実施する「離乳食教室」を見学させていただきました。たくさんの母親が小さな子どもを抱えながら、真剣に栄養士の話しに耳を傾け、メモを取り、質問をしている姿を見ることができました。ラオス人研修員は「日本の母親は子どものために、こんなにも一生懸命に勉強しようとしている。ラオスもこんな風になってほしい」と住民の姿勢の違いを感じ取ったようでした。活動後にそのことを質問したところ、「もちろん、日本にも関心の少ない母親もいる。今はインターネットなどの情報を誤って解釈する場合もあるので、住民が正しい情報に触れられるように、行政として『離乳食教室』やその他の情報を得られる機会を準備することが大切」とお話をいただき、研修員にもその意味がしっかりと伝わったようでした。

 

③分かりやすく伝えるために、教材を工夫する

今年も愛知県名古屋市にある「財団法人名古屋公衆医学研究所」へ足を運び、職場の健康診断(ほほえみ保育園)を見学させていただきました。また、保健指導を担当する保健師より、フードモデルを利用した食事・栄養教育の大切さを伝えていただきました。研修員は「ラオスでは字を読めない住民も多いので、フードモデルや写真を使うのが効果的かもしれない」と、日本の保健指導方法から、今後の活動について示唆を得ることができたようでした。

 

日本とラオスでは、人口も経済規模も開発の状況もすべてが異なります。しかし、住民が健康でいるために、どのようなものを食べていくことが理想的かということに関してはどちらも全く同じです。そして、日常生活の一部である食事の習慣を、より健康的な内容に変えていくことへの難しさも同じです。そのような中で、私たちの活動を今後どのように改善・発展することができるか、研修員は今回の研修で大きなヒントを得ることができたように感じます。今回、ご協力いただいた市町村や関係機関にお礼を差し上げる意味でも、私たちはこれからの活動、そして母子の栄養状態の改善のために一層の努力をしていきたいと思います。

最後になりましたが、この研修の実施に資金的なご協力をいただいた味の素ファンデーション(AINプログラム)、名古屋公衆医学研究所、聖マリア病院、そして今回の研修を実施させていただいた、福岡県小郡市総合保健福祉センター、福岡県北九州市、名古屋市ほほえみ保育園の皆様に、心からお礼を申し上げます。

ISAPH ラオス 佐藤 優

小郡市健母の会の研修(調理実習)に参加し、
ロールキャベツに挑戦!

「子どもがどのくらい食べたらいいか、
分かりやすいね」とフードモデルを見学

「本物みたい!」と日本のフードモデルに
驚く研修員