ISAPHが取り組んでいる母と子の健康の向上において、「食と栄養」の問題は避けられません。
何故なら、栄養状態が悪化することによる健康上の影響は、非常に大きなものだからです。
ですから、子どもたちの食事や栄養を改善することは、子どもの死亡を防ぎ、その子の、その国の将来の発展にも有効な支援なのです。
子どもたちが適切に栄養素を摂取できなかった場合、以下のような問題が起こります。
【発育阻害】
年齢に比べて身長が伸びない
→ 慢性的に栄養が不十分
【消耗症】
身長に比べて体重が軽い
→ 急性・慢性の理由で栄養が不十分
マラウイ共和国では多くの国民が農業を営んでいるため、家庭で食べる食料はある程度確保されており、食糧不足という状態ではありません。
しかし、国の保健調査では、約4割の子どもが低栄養という結果がでています。その原因について、これまでの活動を通し3つの特徴が見えてきました。
1つ目は、普段の食事に多様な食材を使用していないということです。マラウイでの主食は、トウモロコシの粉を練った「シマ」と呼ばれるお餅のような食べ物です。
付け合わせとして、カボチャの葉などをトマトやタマネギと一緒に煮て食べます。
農村部では収入や物流も多くない為、手に入りやすい食材で作った同じような食事を毎回食べている事が多くなります。
このような農村部でよく食べられている食事が続いていると、栄養価が偏った食事となってしまいます。
2つ目は、両親や子どもの世話をする人たちの栄養に関する知識が不足しているということです。マラウイでも栄養・衛生の知識を学校で教えています。
しかし、家庭の経済的な問題などから小学校のうちに退学してしまう生徒が多く、様々な知識を学ぶ機会がとても少なくなっています。
特に学校を退学する割合は都市部より農村部で高く、低栄養児の割合も農村部で高くなっています。
学ぶ機会が少なかった保護者達は、子どもが低栄養状態であってもあまり深刻に捉えていない事が多く、乳幼児健診や低栄養児治療プログラムに積極的に参加をしない人たちもいます。そのため、さらに栄養に関する知識を得る機会を逃しています。
最後は、マラウイの伝統的な迷信により誤った知識が残っているということです。
農村部はいまだに伝統的な暮らしを送っている人が多く、伝統医療や食事のタブーを信じている人もいます。
例えば、妊婦は卵を食べてはいけない、新生児にはハーブ水を与えるなど多くの迷信があり、祖父母からの教えに従っている事もあります。
このような状況から、ISAPHでは妊婦、5歳児未満の子どもとその保護者を対象とした栄養改善プロジェクトを実施しています。
こちらの写真は、私たちの活動する地域でよくみることができる子どもの朝ごはんの様子です。
主食のもち米をおにぎりのようにして、おかずは魚の素焼きです。
あとは、もち米を美味しく食べるための辛い調味料(チェオ)がついていますね。
ラオスでも農村部の人々は、稲作を行い米は自給自足の場合が多いですから、お米をたくさん食べておなか一杯になることを目的として、おかずを準備することは一般的なようです。
ラオスは東南アジアの亜熱帯地域になり、非常に動植物が豊富で、ラオスの人々は、自然界にある動植物を狩猟または採集して、食すことが多いです。
ですから、比較的、食材は豊富にあるように見えますが、林や森に取りに行くのは、多くの子どもを抱えている世帯では、時間的な制約から難しい場合もあると聞きます。
また、文化的な背景から、乳飲み子に米を与えることもあります。
母親に話を聞くと「子どもが泣いているのはお腹が空いているからなので、米を与えなくてはいけない」と考えているようです。
他にも、褥婦(出産を終えた母親)には食べてはいけない食材がありフードタブーが根強く残っていることも、農村部で暮らす人々の特徴かもしれません。
これらの母親たちが信じてきたことや代々教えられてきたことを頭から否定するようなことはしませんが、子どもの健やかな成長・発達を促すためには、根気強く、これらの価値観と向き合っていく姿勢が支援者には求められます。
ビタミンB1という栄養素をご存知ですか?
ビタミンB1は、子どもでも大人でも、人間が生きて活動する上で大切な「微量栄養素」になります。
「微量栄養素」とは、炭水化物やたんぱく質のように多くの量を必要としまませんが、もし欠乏すると命に係わることも少なくありません。
もし乳児にビタミンB1が不足してしまうと、「心脚気(しんかっけ)」という恐ろしい病気に発展してしまいます。
普通に色々な種類の食材を摂取していれば欠乏することは少ないのですが、私たちが活動するラオスの農村部の住民においては、伝統的な食生活/文化や経済的な要因から、ビタミンB1欠乏が起こりやすい状況に置かれていることを私たちは調査で突き止めました。
このような背景から、子どもがビタミンB1欠乏となり、心脚気により亡くなっている現状を突き止めました。
(※ISAPHのラオスにおけるビタミンB1の調査に興味のあるかたは、こちらの論文をご覧ください)
これらは一つの例ですが、摂取する食材の数が極端に少なかったりすると、「微量栄養素」が欠乏する問題に発展することがあります。
ですから、「色々な食材を使って調理する」ことは、私たちが伝えなくてはならない、とても大切なメッセージになります。
調理実習(クッキング・デモンストレーション)で、小学校を卒業していない母親でも、体験型で楽しく学ぶ
保健医療従事者による健康・栄養教育
専門職による、成長モニタリングと発達曲線を利用した保健指導
保健医療従事者による健康・栄養教育より支援が必要な場合は、家庭訪問などによる個別対応を行う(要支援家庭の取り組みはこちらも参照ください)
どれだけ栄養価の高い食事を摂りたいと思っていても
① お金がないなどの理由で、食品を入手することができない
② 市場や商店に、栄養価の高い食品が売っていない、または育てることができない
このような状況であれば、「子どもの健康のために○○を食べさせてあげたい」と思っても実現することができません。
ですので、そのような場合には、自身で生産していけるようになることも大切です。
はじめて育てる野菜や食べたことがない食材は、栽培や調理の方法が分からないだけではなく、その地域の人に受け入れられない可能性もあります。
事前の調査やこれまでの経験を考慮して、よりその地域に合う食材や方法を、実施可能な内容で支援していくことが必要になります。
それぞれの土地でも作付け出来る農産物の選択と住民への説明
村にある相互扶助の力をより強くするため、グループで菜園を運営していく(コミュニティ菜園)
卵の摂取頻度が少ないマラウイでは、養鶏によって、卵が入手可能な食材となるように目指している
これらの活動の結果・成果として、私たちは「食と栄養」の活動において、いくつかの指標を確認しています。
① 妊婦がどれだけ色々な種類の食材を口にしているか
② 完全母乳栄養を実施している子どもの割合
③ 子ども(月齢6カ月以上)がどれだけ色々な種類の食材を口にしているか
④ 子ども(5歳未満)の身長と体重(発育阻害や消耗症の割合)
以上が代表的なものですが、すべてお話するとながくなるので、少しだけ、紹介させてください。
ISAPHでは、MDD(Minimum Dietary Diversity)スコアやIDDS(Individual Dietary Diversity Score)という指標を使って子どもがどのくらい多くの食品群を摂取しているかを聞き取り調査で、定期的に確認しています。
(※妊婦の場合も似た指標を利用します)
「子どもたちが適切な栄養素を摂取しているか」を測ることは、簡単なことではなく、時に誤った情報で間違った評価をしてしまうこともあります。
一方で、多くの食材を摂取することは、栄養不良とも関連があるとされており、これらの簡便な指標を利用することで、限界はありますが、母親や子どもの食事・栄養摂取状況がモニタリングできるとされています。
ラオスのIDDSの変化(2017年度vs2019年度)
マラウイのMDDスコアの比較(旧対象村vs新対象村)
※それぞれの食品群を摂取したかを尋ねた結果
これらをみると、私たちの活動を実施した後で子どもたちの食事に変化が生まれたのではないかと期待が生まれます。
しかし、そもそもその土地で十分に入手できない食材に対しては、それらの食材が手に入るように支援をしなければ知識だけでは解決
しないということも分かります。
また購入する必要がある食品(油や乳製品など)については、所得を向上させる取り組みがより効果的かもしれません。
このように、食と栄養に関する問題は、住民の暮らしを紐解き、どのような支援がより効果的なのか、日々考え続けなくてはいけません。
多様なものを食べるようになった最近の食事の様子
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