ゾウムシ養殖からキャッサバ農地開墾に至るまで

2018年11月から始まった5家庭のゾウムシ養殖パイロット農家は1人も脱落することなく、1月には3シリーズの養殖指導と収穫が終わりました。2kgの乾燥キャッサバを主なエサ原料として、最低でも200g、うまく育つと最高で1,100gの収穫があり、5家庭すべてからエサ代を自己負担して継続したいとの要望があったことから、成虫と村で手に入りにくい糖蜜を提供しながら、7月になっても養殖が継続しています。継続の理由を尋ねると、子どもや家族が食べるから、近所や市場に売れるから、といった具体的な動機とつながっており、実際に昆虫を育て「実物」を手にし、周囲から反応を得ることが、養殖のモチベーションを維持できる王道だと実感しました。今後も実物を手に村人とともに計画を進めることを大切にしようと思います。

初収穫から2ヶ月後の3月には、養殖したゾウムシの中から新たな成虫を収穫することもでき、村人の手で完全養殖できることも確かめられました。とはいってもまだまだ農家ごと、シリーズごとに収穫にばらつきがあることから、農家がより安定してゾウムシを養殖するための技術向上が今後の課題となりました。

ゾウムシ養殖の最適化という実験テーマは、2019年4月にリバネス研究費日本ハム賞に採択され、昆虫食が未来の食材として日本からも注目されていることを改めて感じています。この助成金によって、村で自給できるバイオマスを使い、効率よくゾウムシを得られる方法を実験し、村人と知識を共有、蓄積していきます。この循環型ゾウムシ農業は、交通の便が悪い村人の経済負担を減らすこともでき、持続可能性の高い有機農業として、日本だけでなく世界からも注目されるモデル農業になっていくと期待しています。

パイロット農家たちが自費でゾウムシのエサ費用を負担するようになってから、当事者意識も更に高まりました。2018年11月当初はキャッサバの自給栽培を成功させてから、それらをエサにするゾウムシ養殖を導入する計画でしたが、当時のパイロット農家からは「村は低地ばかりでキャッサバは育たない」「キャッサバは土地を痩せさせるので育てたくない」などのネガティブな反応が多かったことから、先にゾウムシ養殖を紹介し「実物」を手にすることを最初の目標に設定しなおした経緯があります。

彼女らが自身でゾウムシを養殖できるようになり、それらが美味しく、家族が喜んで食べ、そして売れることを実感したことで、その後の合意形成はとてもスムーズにいき、5月中旬にはパイロット農家が自費でフェンスの費用を余分に捻出し、こちらから提案した規模よりも広々とした農地の開墾を了承し、ほとんど自力でフェンスの設置作業もしてくれました。各農家が200本ずつ植えたキャッサバの苗からは、ヨトウムシやキャッサバコナカイガラムシと思われる害虫の発生もあり、自然相手ですのでなかなか一筋縄ではいかないところもありますが、今後も農家とともに乗り越えていければと思います。

NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長 佐伯 真二郎

ゾウムシをたくさん育てるコツを伝授

子どもたちに見守られながら、
力強く農地を開拓するトラクター

植え付けて2週間で早くも葉が茂り始めた
カムラーさんのキャッサバ畑