山梨県立大学看護学部の学生の皆さんが、スタディツアーでラオスを訪れました。
今回のツアーでは、国際機関の訪問、医療施設の見学、現地の看護学生との交流、農村での健康教育、ビレッジステイなどを通して、ラオスの保健医療や地域の暮らしを体験しました。
日本国内や教科書だけでは学ぶことのできない医療の現場や地域社会の姿に触れながら、学生たちは「健康とは何か」「看護とは何か」を考える時間を過ごしました。
ラオスの社会や環境を知る
【チャオ・アヌウォン・スタジアム】
日本の無償資金協力にて改装中のチャオ・アヌウォン・スタジアムを見学しました。
見学では、「ラオスの降雨量に合わせた排水システム」や、「芝生は乾季ではきれいに育ちにくいため、雨期に整備を始める」といった、ラオスの気候に合わせた建設上の工夫について説明を受けました。また、障がいのある方が「競技する側」としても「観戦する側」としても安心して参加・利用できるよう配慮された設計についてもご紹介いただきました。さらに、ラオスでは必ずしも「安全第一」という概念が社会全体で確立しているわけではありませんが、朝の朝礼の恒例化や防護具の着用を徹底することで、少しずつ安全行動が習慣化していったという話も印象的でした。
学生たちは設備や設計の工夫に感心しながら積極的に質問を行い、社会環境や安全意識の違いについて理解を深めました。
完成後は、ラオス政府が運営・維持を行う予定です。
施設を持続的に活用するためには、政府の主体的な運営と地域住民の理解・協力が不可欠であることを学ぶ重要な機会となりました。
また、学生自身も実際に見学しながら、障がい者スポーツや社会参加の意義を理解するとともに、安全性・利便性・地域性の視点を体感することで、国際協力や社会参加の重要性をより具体的に感じることができました。
建設中のスタジアムを見学。
日本の技術者:一級建築士の林先生よりご案内をいただきました。
国際機関から学ぶ保健医療の取り組み
【WHOラオス事務所訪問】
WHOラオス事務所では、母子保健ユニットのテクニカルオフィサーである安東萌さんに、ランチミーティングの機会をいただきました。
ラオスの母子保健事業について、政策の見直しの中で、政府が主体となって現場の状況を踏まえた政策を検討し制度化していく取り組みについて伺いました。また、社会情勢の変化の中で組織を運営していく難しさや工夫についてもお話を伺い、母子保健分野の重要性と同時に、資金確保や政策優先度の難しさ、国際支援の不安定さについても理解を深めました。
常に戦略的かつ長期的な視点で考え取り組まれている姿勢に、学生たちも大変感銘をう受けました。
WHOラオス事務所を訪問。
【JICAラオス事務所】
JICAラオス事務所では、ラオスで行われている保健医療分野の国際協力事業について説明を受けました。
SATREPS事業では、「革新的技術を活用したマラリア及び顧みられない寄生虫症の制圧と排除に関する研究開発」についてご紹介いただきました。当日は、メコン住血吸虫の中間宿主である巻貝や、その他の寄生虫の標本も見せていただき、普段は見ることのない寄生虫の姿に、学生たちも驚きの様子でした。
実は山梨県でも、かつて住血吸虫病が流行していた歴史があります。日本の経験と重ねながら、ラオスでは寄生虫症が人々の生活と深く関わっていること、身近にあるからこそ感染を抑制・制御することが難しいこと、そして治療だけでなく地域住民による予防・啓発が重要であることを理解する機会となりました。
また、「看護師・助産師継続教育制度整備プロジェクト」について、ご説明いただきました。
ラオスでは、保健人材の量的・質的課題があり、首都と地方の人材の能力差も見られます。そのため、国全体で医療人材を継続的に育成する仕組みづくりが進められています。取り組みの中では、県や郡レベルへの継続教育の周知や育成につなげることに課題もありますが、育てられる力や仕組みがあれば、医療の質の維持・向上の循環を生み出すことが可能であることを学びました。
学生たちは、医療の質向上には個人の努力だけでなく、国の制度や研修体制といった「育てる力を育む仕組み」が重要であるという視点を学ぶことができました。
JICAラオス事務所を訪問。
【国立病院(マホソット病院)、県病院、郡病院】
国立病院(マホソット病院)、県病院、郡病院を訪問し、ラオスの医療システムを首都レベルから郡レベルまで段階的に学びました。
それぞれの病院で提供できる医療サービスや住民の健康行動には違いがありますが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の増加は共通して見られる課題でした。
マホソット病院では、施設整備や医療サービスの拡充が進み、ラオスにおける現代医療の中心的役割を担っている様子を感じることができました。一方で病院を段階的に見学することで、現代医療がすべての地域で同じように提供されているわけではないことも理解しました。
学生たちの印象に残ったのは、ラオスの医療現場では、多くの病院で家族が患者のそばに付き添い身の回りのケアを行っているなど、「常に家族がケアの中にいる」という点でした。
家族の存在は患者にとって非常に大きな心理的支えとなり、不安軽減や回復意欲の促進、退院後の支援のスムーズな移行につながります。
私(三浦)自身、病院に勤務していた時は、患者家族が「何もしてあげられない」と無力感を抱く場面をよく目にしていました。しかし、家族が患者のケアに関わることは、家族自身も「何かしてあげられる」と役割を実感することにもつながります。ここから学べることは、
「家族を巻き込んだ患者中心のケア」の価値と重要性です。家族が関われる場面や役割を認識できるように支援をすることで、患者家族の安心や患者の回復を支えることにつながるという視点を、改めて認識することができたのではないかと思います。この経験は、看護師としての視点や患者支援のあり方を考える上で非常に貴重であり、日々の看護実践にも活かせる学びとなったと感じています。
国立マホソット病院。
ラオスの看護学生との交流
【カムアン県保健学校訪問】
保健学校を訪問し、約60名の看護学生・助産学生の皆さんと交流をしました。
お互いの学校について紹介したあと、
「どのようなカリキュラムなのか」
「卒業後どのように進路が決まるのか」
「勤務形態はどうなっているのか」
「看護師・助産師を目指した理由は何か」
「どのようなユニフォームを着ているのか」
「学校生活で大変なことは何か」
など、多くの質問が交わされました。
夢をもって医療者を目指す学生たち。学ぶ環境や制度は違っていても、「患者のために」「家族のために」という思いは共通であるこことを確かめ合いました。
また、村落で実施する「歯の健康教育」のリハーサルも行いました。
「歯磨きの時間はもう少し長くできる」
「実践的なのはすごく良い」
など、地域の生活を知る現地の看護学生からのフィードバックを受け、内容の完成度をさらに高めることができました。
この交流を通して、異文化理解を深めるだけでなく、将来の医療人材としての意識を高め合う、貴重な機会となりました。
カムアン県保健学校の明さんと記念撮影。
農村での健康教育
農村部では、学生が住民に向けて「口腔ケア」に関する健康教育を実施しました。
ラオスの農村部では歯を磨く習慣が十分に定着していない地域もあり、虫歯がある人も少なくありません。体を洗うときに一緒に歯を磨くだけの人や、つまようじでケアをして食後には歯を磨かない人、食後に歯磨きせずにそのまま寝てしまう人など、歯磨きが予防行動として十分に定着していない現状があります。
そこで学生たちは、現地の生活環境や習慣を踏まえながら教育内容を工夫し、「なぜ歯磨きが必要なのか」を視覚的に分かりやすく示すとともに、「歯磨きをしないと虫歯になり、家族でおいしいごはんが食べられなくなる」といった、家族を大事にするラオスの背景も踏まえたメッセージ性のある例で、虫歯への認識や歯磨きのメリットや歯磨きをしないことによる悪影響をより実感できるように工夫しました。さらに実際に皆で歯磨きを実施する、実践・体験型の健康教育を行い、学習の定着を図りました。
住民は積極的に参加し、子どもたちも楽しみながら取り組む様子も見られました。中には、自慢げに歯磨きを見せてくれる子どももおり、学びを楽しみながら実践する姿が印象的でした。
この活動を通して学生は、単に知識を伝えるだけでなく、地域の生活習慣や文化的背景を理解したうえで健康教育の重要性や、住民の行動変容につなげるための動機付け型の支援について、実践を通して学ぶ貴重な経験となりました。
※本健康教育で使用した歯の模型は、後日、山梨県立看護学部の皆様よりカムアン県保健学校へご寄贈いただきました。山梨県立大学の皆様、ありがとうございました。
子どもたちや住民に、歯磨きの大切さを伝えました。
アウトリーチ活動に参加する学生たち。
農村での暮らしを体験する
【ビレッジステイ】
ビレッジステイでは、ラオスの農村の家庭を訪問し、住民の暮らしを実際に体験しました。
朝は市場を訪れ、昼食の食材を調達。普段、日本のスーパーでは見かけることがない、まだ生命を感じる食材の姿に驚きながらも、学生たちは地域の食文化を肌で感じました。
お世話になるご家庭を訪問し、その住民とともにトゥクトゥクに乗ってカニ獲りへ向かいました。乾季は自然から食材を確保が難しい時期ですが、住民は長年の知恵と経験を頼りに、土の中にいるカニを探し出します。
食材は自然から調達するという生活の中で、自然環境や生活条件が栄養状態に直結していること、また栄養課題の背景の複雑さや解決の難しさ、そしてその重要性について、実体験を通して理解を深めることができました。
訪問したご家庭には、2歳ほどのお子さんがおり、一緒に作った昼食を囲みながら家族との交流を行いました。家族の暮らしや考え方に触れることで、子どもの将来や家族の生活を思い堅実に働くお父さんと、それを支えるお母さんの姿から、家族の役割や地域への愛着を感じる場面もありました。学生たちはこうした交流を通して、自身たちの生活や価値観を見つめ直すとともに、生活背景や暮らしを理解することが国際協力を考えるうえで欠かせない視点であることを実感しました。
また、ビレッジステイでは、学生が自分の固定観念や苦手意識を越えて、「やってみよう」と挑戦する姿勢や、異文化を理解し理解・尊重しようとする姿も見られました。
この経験は、地域の強みや課題を実体験として理解するだけでなく、学生自身の成長や自信にもつながったと感じます。
早起きして朝市へ。村へ持参する今日のお昼の食材を購入します。
お世話になるご家庭の住民とトゥクトゥクに乗ってカニ獲りへ。
村の住民と一緒に食材の確保から調理。一緒にお昼をいただきます。
教室では得られない学び
今回のスタディツアーでは、国際機関、医療施設、教育機関、農村地域など、様々な場所を訪問しました。健康や医療は、病院の中だけで成り立つものではなく、人々の生活や地域社会と深く結びついています。学生たちは、医療や健康が社会や生活と深く結びついていることを、実際の現場で体験しながら学びました。こうした経験は、将来医療にかかわる人材が地域や社会の背景を理解しながら実践を行うための大切な学びとなります。
ISAPHでは今後も、地域の暮らしや保健医療の現場に触れながら学ぶ機会づくりを通して、次世代の医療人材の育成に貢献していきたいと考えています。
村の住民と一緒にカニ獲り
村の皆さんと一緒にお昼ご飯を作る学生たち
村ではアウトリーチ活動も体験
ISAPHラオス事務所 三浦 夕季