皆さまこんにちは、ISAPHラオス事務所の三浦です。
このたび、2025年11月に、ISAPHマラウイ事務所を訪問しました。
本記事では、マラウイでの母子保健の現場の視察や関係者・住民との対話を通して、「人はどのようなきっかけで行動を選び、続けていくのか」という視点から得られた気づきをお伝えします。
これらの気づきは、今後ラオスでの活動を考える上でも重要なヒントとなるものでした。
ISAPHマラウイ事務所までの道のり
ラオスと近い風景を感じるが、バイクが少ない
ISAPHラオス事務所
乾季の終わりだが、涼しく、空がきれい
今後ラオスで実施予定のJICA草の根技術協力事業「誰一人取り残さない母子継続ケア支援事業」では、妊婦が自ら保健サービスを選択・継続できるよう意思決定を支援する仕組みの導入を目指しています。そのためには、人々がどのような価値観や文化・社会的環境の中で行動を選択しているのかを理解することが不可欠です。
今回の渡航では、ラオスと共通する保健課題を抱えつつも、文化や社会構造が異なるマラウイの現場を訪れました。そこで、住民の行動を引き起こすきっかけや、前向きな行動を後押しする工夫や考え方について理解を深めることを目的としました。
健診に訪れるお母さんたち
産後検診での集団健康教育の様子
保健センターの健診会場で働くHSA
日常の中に溶け込む、マラウイの母子保健活動
マラウイでは、子どもの低栄養の課題に対し、地域で暮らす保健ワーカー (HSA)が中心となり、住民参加型の栄養改善活動が展開されています。乳幼児健診では、体重測定や予防接種に加え、歌を取り入れた健康教育や、住民が食材や調理器具を持ち寄って行う調理実習などが行われていました。
これらの活動はソーシャルメディア(WhatsAppなど)を通じて村落間で共有され、住民の主体的行動を促す仕組みとして定着しつつあります。こうした取り組みは、特別なことではなく、人々の日常の中に自然に組み込まれているように感じられました。
フィールドスタッフによる健康教育
栄養価の高い離乳食(ポリッジ)
を作る調理実習
村のプロモーターやボランティアが率先して
体重測定をサポート
住民の行動背景を理解する過程で、母子保健サービス利用状況にも目を向けました。
マラウイでは施設分娩率が97%と非常に高く、多くの妊婦が医療機関で出産しています。その背景には、施設分娩が「当たり前」とされる社会規範があり、自宅分娩を選択すると社会から否定的な目でみられやすい状況があります。そのため、妊婦は周囲から非常識だと思われることへの恥を避けようとし、この感情が施設分娩を選択する行動を後押ししていました。
一方で妊婦検診の受療率は必ずしも高くありません。妊娠検査薬の入手先が限られるため、初回の妊婦検診で「妊娠していなかった」と分かった際に感じる恥が、受診をためらう要因の一つとなっていました。
このように、周囲の目や恥の感情が住民の行動選択に影響を与え、時に行動を抑制する要因となる一方で、望ましい行動を促す力としても働いていることが分かりました。
人が「周りからどう見られるか」を気にして行動を選ぶこと自体は、日本でもマラウイでも変わりませんが、その基準や重みは、社会や文化によって大きく異なっていると感じました。
急遽、施設分娩に同行した隣人
保健センターでの聞き取り
/妊婦検診に並ぶ妊婦たち
母子保健サービス利用について住民とお話し
日常生活においても、服装や髪型に気を配ることや、市場で商品を美しく見せる工夫など、他者の目を自然に意識した行動が見られました。
マラウイではこうした行動が可視化されやすく、周囲からの評価や承認を日常的に受け取りやすい環境にあると考えられます。小さな成功体験や承認、達成感の積み重ねは自己効力感を高め、新たな行動への意欲を高めます。
これらの点から、ソーシャルメディアを通じた情報共有は、他者の行動や成果を可視化することで行動意欲を高め、また調理実習は達成感や成功体験を得やすく行動の継続につながるなど、マラウイの社会規範や心理的動機を活かした効果的な支援として機能していると理解しました。
きれいに並べられているトマト
色鮮やかなチデンジのワンピースを着たお母さん
きれいに塗装された看板が目を引く
病院の一角にある売店
自然に選ばれる行動―マラウイとラオスの違い
一方、ラオスでは他者との比較や評価が行動の主な動機となることは少ないと感じます。
母子保健サービスの利用においても、「前回は自宅出産で問題なかったから今回も自宅分娩を選択する」「親が自宅出産だったのでそれに倣う」といった、過去の経験や直感に基づく意思決定がされやすい傾向があります。
一見すると行動の動機は明確に見えにくいものの、こうした選択は本人にとって自然で安心なこととして捉えられる価値観や規範の中で成り立っており、「当たり前」とされる選択から外れる場合に感じる心の負担を避けるため、過去の経験や周囲の行動に倣うことが、安全で無難な選択としての動機になっていると考えられます。
マラウイにて妊産婦の受診行動に関する聞き取り
ラオスとマラウイの母子保健サービス利用に関して
ディスカッション
こうした背景を踏まえると、年長者の意見を通じた働きかけや、行動をポジティブな経験として印象付ける工夫、周囲で起きている変化の兆しを可視化することは、穏やかな社会規範の変化を示し、自然な選択の幅を広げ、望ましい行動選択につながる可能性があると考えます。
最近では、妊婦検診に行く動機として、エコー検査による「性別が知りたい」「赤ちゃんが元気かどうか知りたい」といった要素が若年妊婦の間で共有され、魅力的な行動として広がりつつあります。行動の結果や変化がポジティブな経験として実感されることは周囲にも共有されやすく、成功体験を通じた動機付け支援としても活用できると考えます。
自然に望ましい行動を選択できる支援を目指して
今回の渡航を通じ、同じ社会規範や周囲からの影響であっても、文化や習慣によってその働き方や活かし方が大きく異なることを改めて実感し、ラオスにおける行動背景についても新たな気づきを得ることができました。また、人々が“自然に選びたくなる状況”をつくる行動経済学のアプローチの有効性を再認識するとともに、今後の介入設計において重要な示唆も得ることができました。
本渡航で得られた知見は、今後ラオスで実施予定の母子保健事業において、住民の行動背景を踏まえた活動設計や持続可能な事業運営に活かしていきたいと考えています。
ISAPHは今後も、「正しさ」を押しつけるのではなく、人々が自然に選び続けられる形を大切にした支援を行っていきます。
※本渡航は、外務省が実施するNGOインターンプログラムの一環として行われました。
本プログラムは、NGO職員の学びや経験の共有を目的としています。
ISAPHラオス事務所 三浦 夕季