ISAPHラオス事務所 石塚 貴章
ラオス・カムアン県サイブートン郡。
森に囲まれたこの地域では、昔から昆虫を食べる文化が息づいています。
ゾウムシの幼虫は自然採取が中心で、市場でも高値で取引される“身近で価値ある食材”。
ISAPHは、この文化そのものに注目しました。
「地域の力を生かしながら、食と収入の両方を支える仕組みがつくれるのではないか」——そんな考えから、小さな昆虫養殖の取り組みが2024年度に始まりました。
当初は不安げに飼育箱をのぞき込んでいたお母さんたちも、ISAPHスタッフと一緒に試行錯誤を重ねるうちにコツをつかみ、気づけば自信の宿った表情に変わっていました。
食料販売店へ消費者のニーズを聞き取り
「子どもに食べさせられるものが増えてうれしい」「売れると励みになる」といった声が広がり、これまでに96世帯が市場で販売できる品質の生産者へと育っていきました。
ISAPHが目指すのは、物やお金を届ける支援ではありません。
村のお母さんたちが、自分たちの力で昆虫を育て、売り、家族の暮らしを守れるようになること——
「生きる力」「健康になる力」を地域の中に育てていくことです。この昆虫養殖は、その理念をかたちにする取り組みでもあります。
自分たちの組織をつくるという、一歩先の挑戦
そして2025年度。
活動はひとつの大きな転機を迎えます。
養殖農家の中から「みんなで協力して売る仕組みをつくりたい」という声があがり、郡産業商業局の後押しも受けながら、生産者組合の構想が動き出しました。
何度も話し合いを重ねた末、7月には20名の生産者と7名の運営委員による「パーコーン・パークワイトン・パークワイドン村ゾウムシ幼虫生産者組合」が誕生しました。
集会所で行われた設立の日、メンバーたちは少し緊張しながらも、どこか誇らしげでした。
書類にサインをした瞬間、「これからは、自分たちの組織として前に進める」そんな決意が会場に満ちていました。
生産者組合の設立説明会
売り方を学ぶために、住民とスタッフが一緒に市場へ出る
組織ができると、次は “どう売るか” を考える段階に入ります。
ISAPHのスタッフは生産者とともにターケーク郡の商店を訪ね歩き、13店舗の協力を得て市場調査を行いました。
対象となった商品は、農家と共同で生み出した3つの加工品。
辛子タレ、発酵ソーセージ、冷凍ゾウムシ——。
2ヶ月にわたる売上データや店主の声を集めることで、徐々に「消費者が求めるもの」が見えてきました。
辛子タレ
発酵ソーセージ
冷凍ゾウムシ
調査の結果、消費者は中間層・富裕層・最富裕層 と大きく3つに分類されることが判明。
そこから、マーケティングの基本である 4P(Product/商品・Price/価格・Place/販売場所・Promotion/販促) の視点で戦略づくりが進みました。
市場で手に取りやすい小袋商品、栄養価や地域性を伝えるデザイン性の高い商品、物語を添えたプレミアム商品——。
生産者たちは、ただ“作るだけ”だったところから、“どう届けるか”という視点へ大きく意識が広がっていきました。
「自分たちでも工夫できることがたくさんあるんだね」
調査に同行した農家の言葉には、小さな手応えと未来への期待がにじんでいました。
ラオスの村から隣国タイへ。視野が広がる“学びの旅”
2025年度には、さらに視野を広げるための学びも行われました。
ビエンチャンではODOP認証組合からブランドづくりとSNS活用を学び、タイのコーンケーン、ルーイでは大学と農家の協働体制や冷凍流通の仕組みを視察。
住民たちは、遠くの土地で同じように挑戦している人々の姿を目にし、
「自分たちにもできるかもしれない」
という新しい自信を持ち帰りました。
こうした経験を受けて、郡産業商業局では県職業訓練校やタイ大学との連携に向けた動きが始まり、民間企業からはラオス産ゾウムシの輸出加工への関心も寄せられています。
サイブートン郡の生産者たちの活動は、少しずつ地域の外ともつながり始めました。
住民の実践から育つ組織。そして、その先の未来へ
こうして誕生した生産者組合は、日々の養殖、試験販売、学びの積み重ねの中から、住民自身の“やってみたい”が形になって生まれた組織です。
まずは安定した収入を生み出すこと。
その一歩一歩が、家族の暮らしを支え、村の連帯へとつながっていきます。
ISAPHは、これからも住民・行政・市場を結ぶ橋渡しとして、サイブートン郡から生まれる持続可能なフードシステムをともに育てていきます。
※本事業は、一部「アジア生協協力基金」の助成を受けて実施しています。
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