ラオスの活動に対する支援報告-VHV 研修その他-

第2回目の派遣では下記の4つの目的がありました。

  1. 第1回VHVの研修を支援する
  2. 聖マリア病院臨床研修医国際コースのフィールド活動のための事前情報を現地スタッフと共に収集する
  3. 聖マリア病院副院長(島先生、高松先生)のラオス訪問のアテンドを現地スタッフと共に行う
  4. ISAPH ラオスの活動計画を現地スタッフと共に見なおし、県保健局及び郡保健局の関係者と協議する

ここでは主にVHVの研修支援と聖マリア病院臨床研修医国際コースのフィールド活動のための事前情報収集について報告いたします。

VHV研修支援活動

VHV研修支援の経緯について、前回のISAPH ラオス活動支援活動において5 歳未満児の体重測定は実施されていましたが、肝心のGrowth Chart(成長カード)には記録がされていないこと、母親への説明も十分されていないこと、予防接種はやっているがすべき子がされていないこと、ほとんどの分娩が訓練を受けていない介助者による自宅分娩であることなど、コミュニティでの保健の問題が把握できました。さらにUNICEFやJICAが撤退した過去10年間はドナーからの予算がつかずVHVの訓練が行われていなかった実態も明らかになりました。ISAPHは母子保健の向上を目指しており、村レベルでのキーパーソンはVHVであることなどから、彼らの研修をラオス側の協力を得て実施することとなりました。研修は1シリーズ3回で完結予定です。内容は第1回目が体重測定と栄養指導、第2回目が第1回目の復習、予防接種(予防接種の目的と予防接種で予防可能な疾病)および健康教育、第3回目が薬(Drug Revolving Fund)についてです(Community IMCI: Integrated Management of Childhood Illness は関係者で内容を協議の上、追加する予定)。

参加者であるVHVは各村から2名とし、1名しかいないところは女性同盟を入れてもらいました。講師陣は県EPI技術課職員、県MCH(Mother and Child Health) 課職員、郡MCH 課長、郡EPI 担当者等そうそうたるメンバーが参加してくれました。モニター役で県保健局管理課長と郡保健局長が参加し、もちろん現地ISAPH職員も参加し、講師陣から研修の内容、進め方などを学んでいました。

芝田さんとラオス人講師陣により、手作業による独自のテキストが作成されました。既存のテキストに図や写真などを切り貼りするなど、相当な労力を費やしました。テキストの内容は研修の目的、ヘルスワーカーの役割と活動内容、体重測定の目的と方法、成長カードの見方、栄養について(体重減少児に対する栄養、離乳食、母乳栄養)、衛生教育についてです。

プレテスト/ ポストテスト、研修後のアンケートなども作成しました。当研修では座学だけでなく、演習やロールプレイなどを多く取り入れて習得を促し、すぐ活用できるような試みをしました。研修最終日の3日目には研修の仕上げとして、実際にタムライ村の5歳未満児の体重測定を実施しました。村の5歳未満児59人中、55人が来てくれました。VHV は成長カードへの児の名前や月の記入、また、体重のプロットなどで困難を極めていました。私自身、不可能なことをVHV に望んでいるのではないか、アプローチ方法を変えるべきかと悩みました。関係者で話し合い、研修後のフォローアップを毎月行い、VHV ができるようになるまで繰り返しフォローすることで合意しました。そのフォローアップのためのチェックリストも関係者と共に作成しました。現状の体重測定はヘルスポストの職員が3ヵ月に1回村に来て、体重測定をしていますが、ISAPHとしてはVHV自身で3ヵ月毎に実施し、体重増加が思わしくない児は毎月フォローアップをするということを目指しています。

VHV研修後の反省会では、研修通知の手紙を確実に配達すること、テキストの作成時間を十分取ること、問題が起きたときのためのラオス側の総責任者を決めることなどが次回の対策として出ました。

VHV研修のフォローアップ実施後の反省会では、VHVにより知識や技能の差があることから第2回目の研修でも復習を行うこと、体重測定の実施日程を村人に周知させること、もっと村人の協力が必要であるという意見が出ました。

聖マリア病院臨床研修医国際コースのフィールド活動のための事前情報収集活動

現地スタッフと共に収集した内容は、小児栄養に関連する5つのsubtopic(food security, micronutrient defi ciency, breastfeeding, EPI/infection, management of malnutrition)について、主に母親、VHV、ヘルスポスト職員、郡病院職員などから聞き取りをしました。妊娠中や分娩及び分娩後のラオス特有の風習に関しては母親へのFocus Group Discussion と個別インタビューを実施しました。栄養に関して収集した情報は以下の通りです。

もち米と野菜は自家栽培している家庭が多く、村人はもち米を主食に、おかずは近くの川などから魚や貝、また虫などを取ってきて日々の食事にしていました。おかずの入手状況によって一日2食か3食かになるようでした。村でヨード塩は普及しており、のどが腫れるのを防ぐために食べると村人は理解していました。ヨードの含有量は同じ会社のものでもばらつきがありましたが、必要量(15ppm)は満たしていました。また、値段も入手場所によってばらつきが相当ありました。ビタミンAは、村のヘルスポスト職員によって、年2回5歳未満の児に投与されていました。母乳は生まれた直後から2歳くらいまで与えているようでした。しかし、生後3日目以降に、母乳を与えたあとに泣くともち米やモックカオ(焼いたもち米を口のなかでぐちゃぐちゃにして焼いたり、バナナの皮に包んで焼いたもの)をあげていました。もち米を与える理由は泣くのをやめさせるためで、ラオス人は赤ちゃんがあまり泣くのをよしとしないためと言われています。分娩後の母親は、あぶったもち米を水にふやかしたものを食べています。赤ちゃんのおしっこや塩水を飲んでいて、産後1ヵ月目には魚、肉を食べ始めるとのことでした。

栄養失調児(身長に対する体重の割合で、標準以下の児)の割合 は、タムライ村のヘルスポストで5歳未満児53人中7人(約13%)が、またセバンファイ郡では1,049人中113人(約11%)にみられました。

出生記録は村長、VHV、警察が別々につけていました。出生記録の使用目的が村長は郡庁への報告、VHVはEPI のためなどと異なっているからのようです。死産は記録するが、流産は記録しないとのことでした。また、出生時体重については、村ではほどんどが自宅分娩であり、不明でした。ヘルスポストで月数件しかない分娩時もユニセフからの体重計の使用法がわからないため記録していませんでした。

妊娠中、分娩および分娩後、新生児ケアに関して、ラオス特有の伝統的習慣があるかどうか探るため、ブンフアナ村で母親グループへのFocus Group Discussionをしました。この村を選んだ理由は、特に乳児死亡が多い村と言われていたためです。概略は以下の通りです。

お産に対するイメージ

お産はこわい、痛いという認識がある。特にお産前は子どもが出てこないんじゃないか、子どもがまた死ぬんじゃないかなど、どうなるのかわからないため、こわいという意識が強い。

妊娠はどのようにしてわかったか

経験上からわかっている。例えば、すっぱいものが食べたくなったり、あまり食べたくなくなったり、月経が止まったりすることからである。

分娩時の習慣

木のナイフでへその緒を切って、切ったところは胎盤が出やすいように水につける。へその緒が乾いてとれたところにはゴザの灰をつける。

分娩後の食事

産後3 日間は塩を食べず、ごはんのみ食べる。水(お湯)はたくさん飲む。また、鶏肉、牛肉など産後どのくらい経過したかで食べられるものが変わってくる。

赤ちゃんへの栄養

母乳は他にあげるものがないからすぐ与えている。母乳をやったあと泣いている時は もち米を練って火であぶったものを食べさせている。

また、個別に乳児死亡の原因を探るため8人の母親にインタビューしました。それぞれの母親により亡くした子どもの数が異なっていますが、ある母親は生んだ子どもの半数を亡くし、他の母親は生んだ子ども全員を亡くしています。何番目の子がとくに多く亡くなったというわけではありませんでした。亡くなった時期は2~3ヵ月が多く、疾患名はわからず、症状は母乳を飲まなくなったり、ごはんを食べなくなって泣いて硬直してなくなったケースが多かったようです。母乳は皆生まれた直後から飲ませていました。妊娠中も通常通り水汲みや蒔き集めなど家事労働をして特に問題はなく、数人に浮腫がありましたが、普通に自宅で分娩し、児の大きさは普通かやや大きかったとのことです。妊婦検診もお腹が大きくなる6ヶ月以降に郡病院で妊婦検診を少なくとも1回は受けており、また、破傷風の予防接種も前回の妊娠時を入れるとほとんどの母親は2回以上受けており、破傷風の予防はできていたと思われます。この村にはTBAはいません。母親達は何もなければ自宅で生んでもいいと思っています。お産の時に夫や母親が傍らにいますが、いても特に手伝うということもないようです(実際お産そのものに対しては何もできない)。不安を抱えつつも自力でへその緒も切って産んでいます。なかなか産まれなかったり、お産が困難であると病院へ行っているようです。この村は部族が他の地域と異なるため、分娩や新生児のケアで違いがあるかと思われましたが、胎盤が早く出るようにと切ったところを水につけることくらいしか違いがありません。今後、村で月に数件しかない分娩がどのように行われているのか確認する必要があるかもしれません。

聖マリア病院国際協力部 齊藤 智子