子どもが41人生まれて24人が死んでいく村で何が起きているのか

ISAPH LAOS の活動サイトであるカムアン県セバンファイ郡(人口25,561人)では、昨年生まれた子どもの数は453人いて、そのうち69人が1歳までに亡くなっていました。また、2004年には51人が1歳までに亡くなったと報告されています。特に死亡数が多いのが、郡内7つの区域のうちシーブンフアン区域(人口3,398名)で、41人生まれ1歳までに24人が亡くなりました。この世に生を受けてからわずか数ヶ月でその半数の命がなくなっていくこの現状をどう理解すればいいのか悩みました。いったい何が起きているのか?

この地域は中地ラオ族といって、普通のラオス人(低地ラオ族)と言葉や文化、風習が違います。しかし、幹線道路に接し交通の便もよく、車を利用すれば郡病院まで15分ほどで行けます。幹線道路には市場もあります。田畑は広く、もち米を収穫しており灌漑設備も整っています。このような立地条件でなぜ生まれた子どもの半数以上が1歳を迎えず亡くなって行くのか?セバンファイ郡保健局のカムコン保健局長も問題と感じ、村落への巡回診療や、3ヶ月に1回全村で行っていた予防接種を毎月行うなど努力をしました。しかし、巡回診療は保健局の予算がなく継続できていません。予防接種も通常は3ヶ月に1回なので県からの予算が下りておらず、少ない予算の中で行われているので今後継続できるかわかりません。

ISAPHとしてまずは、子供が亡くなっていく原因を探る調査を行いました。方法として、 母親にインタビューを行いました。村長さんが村の中で多くの子どもを亡くした母親に声をかけて集まってくれたようで、ある母親は9人生んで8人亡くしていました。また、ある母親は7人生んで5人亡くすなど、集まった8人の母親は産んだ子供の数の約半数以上を亡くしていました。母親は、子どもが死んでいくから、また生むということを繰り返し母親の身体は老いているような気がしました。赤ちゃんは生まれてすぐではなく、ほとんどは2~3ヶ月目で亡くなっていました。医療施設に行かないので病名や詳しい症状など死亡原因がわかりません。母親に死んでいくときの子どもの状態を聞くと、ただ、「泣いて、泣いて死んだ」「母乳を飲まなくなって、ごはんを食べなくなって泣いて死んだ」と答えるのです。

妊娠中は大きな問題はなく過ごし、ほとんどの母親は妊娠が進んで6~8ヶ月目ごろに郡病院へ妊婦健診を受けに行っていました。その時に破傷風の予防接種を行います。ラオスでは問題がなければ自宅で出産するのが通常です。ある母親は、赤ちゃんが足から出てきて病院に行ったが死んでしまったと言いました。子どもを授かったときは嬉しいが、また子どもが死ぬのではないかと思うと怖いと言いました。私はインタビューしながら、胸が痛く涙が出そうになり、なんとかしたいと思いました。この村ではお産を手伝う伝統助産婦もおらず母親がひとりで出産し、自分でへその緒を切っているようでした。日本人の私はこの状況を容易に想像できませんでした。また、へその緒は木のナイフで切り胎盤が早く出るようにと切ったところを、井戸水や雨水につけます。その後へその緒が取れたら乾燥するように、わらで編んだゴザを焼いて残った炭をへそに振ります。出産後お母さんは、台所で薪をたき暖かくしてお湯をたくさん飲みます。塩は3日間食べず肉は3ヶ月間食べられないなど、先祖からの言い伝えのような風習が根強く残っています。

また、このとき母親からは聞きませんでしたが、魔除けのため生まれてきた赤ちゃんの額に水牛の糞を塗る風習もあるようです。このように、聞き取り調査だけでは、見えてこない部分、また出産と言う女性にとっては特別な出来事を言葉で他人に話すのは難しいと思われました。どの風習も先祖から受け継がれており、なんらかの意味を持っていると思います。否定するのではなく、母親が受け入れられる方法を考えて行きたいです。今後はこの村の人たちと交流を持ちつつ自然な村での出産を観察すること、妊娠中や産後の母親の生活状況や赤ちゃんの健康状態など、村に泊り込んで一緒に生活するなかで、その原因を追究していきたいと考えています。

ISAPH LAOS 芝田 澄子