活動対象地域外の村人たちによるISAPHの活動を倣った自発的なグループ結成

ISAPHマラウイ事務所の山本です。

現在(2021年6月時点)、ISAPHマラウイは人口合計10,000人余りの10村で活動していますが、先日、現地人職員から興味深い報告がありましたのでご紹介します。

ISAPHマラウイの活動地域では、集落ごとに世帯が集まってグループを作り、その組織を通じて調理実習や農業指導などの活動を行っています。ある日、現地人職員の一人がグループのひとつに向かう途中、今まで関わりがなかった母親世代の女性達が集まって活動しているのを見かけます。よく見ると、まるでISAPHが行っている様な調理実習を開いているところでした。

職員が話を聞いてみると、こんなことを話していたそうです。

  • グループ活動をしている近所の集落では、栄養状態の良くない子どもがほとんどいなくなっていることに気づいた。
  • そのグループに属している友人の家に行くといつも、自分達の知らない美味しい料理を作っていた。
  • その人達は「栄養のために6つの食品群を使う」と話していて、それが何のことか分からなかった。
  • 普段、スナック類を作って販売しているので、新しいレシピを覚えたら商売の役に立つと思った。
  • 村長と村人達とで話し合って、最近、自分達で独自にグループを結成して活動を始めた。

彼女達は、ISAPHの活動対象地域の外に住んでおり、これまでISAPHから幼児の食事や栄養について指導を受けたことはありませんでした。しかし、対象地域で変化が起きていることに気がつき、どの団体にも指示や支援を受けることなく、自発的に活動を始めていたのです。

こうしてこのグループは、正式には活動の対象者ではありませんが、リクエストがあった際にはISAPHマラウイ職員が指導に行くグループのひとつになりました。

これまでISAPHは、栄養や幼児の発育について、活動地域外では啓発活動を行ってきませんでした。マラウイで活動する団体の中には、県内各地、あるいは国全体を対象地域として活動する大規模組織もありますが、ISAPHは決して大きな団体ではなく、対象とできる地域の範囲には限界があるためです。しかし、子どもの栄養状態に問題を抱えているのは、ISAPHの活動地域に限ったことではありません。これは、将来的には解決されなければならない問題です。

“子どもの健康な成長を助ける”という理念は、疑いようもなく良いことに聞こえます。そのような利益のあることなら、自ずと社会に広まっていく様にも感じます。ですが、例えば“栄養のあるものをバランスよく食べる”、“子どもの成長に合わせて食べるものや回数を調節する”、“手を洗う”といったひとつひとつの行動は、そのメリットや、反対に守らない場合のリスクが目に見えず、また恩恵を受けるとしても数ヶ月〜数年先であることがほとんどです。多くの人にとって、そういったことを実際に行動に移すことは簡単ではありません。

それに対して、“美味しい”、“いつもご飯を食べたがらなかった子が嬉しそうに食べている”、“皆で集まってひとつのことを楽しむ”といった喜びは誰にとっても分かりやすく、やる気の出るものです。その結果、何ヶ月か後になって“子どもの発育が良くなってきた”、“そのことを地域の保健員にも褒められた”、“近所でも評判になり秘訣を聞かれる”といった喜びがあると、更に自信につながります。“利益のあることなら自ずと社会に広まっていく”という考えだけでは、あまり上手くいかないことの方が多いのです。

少し歴史の話をします。マラウイではどこでも見かける“チップス”の屋台。日本で言う“フライドポテト”のイギリス英語ですが、これはイギリス人が歴史上のどこかで持ち込んだものがマラウイ全土に広がったのだと考えられます。本当に受け入れられて人気が出れば、それは無理に奨励しなくても自然と社会に広がっていくものなのです。そして、第2、第3のチップスに相当する文化が根付くことも、不可能ではないはずです。

ISAPHマラウイが活動する目的は母子の栄養を改善することですが、それまで人々が長年にわたって続けてきた習慣を変えることは簡単ではありません。それが食習慣のような、より生活の根底に馴染んでいるものでは尚更です。そのためには、人々に今までの習慣を変えてでも行動してもらうだけの魅力を伝えないといけません。ISAPHが目指すのは、人々に受け入れられ、願わくば自発的に新しい行動や習慣として取り入れられ、むしろISAPHが直接はたらきかけなくとも広まっていくような、そんな価値観を提案することなのです。

第2、第3のチップスを生み出すことは簡単ではありません。それは押し付けることもできないし、おそらく偶然の重なりによって生まれるものです。それでも、小さな組織が活動できる地域の範囲を超えて、子ども達の栄養に寄与する習慣を広められたらと願います。新しいグループが結成された今回の一件からは、そんな可能性を感じます。

マラウイ中どこにでもあるチップスの屋台

人気レシピのひとつ、フレンチトースト

紹介した中でも特に人気の高い、バナナ入りパンケーキ

6つの食品群

子どもが食事をしっかり食べてくれると嬉しいもの

ISAPHマラウイ 山本 作真