ゾウムシ養殖パイロット農家の第一歩

2018年10月末、1年間にわたる村落栄養ボランティア(VNV:Village Nutrition Volunteer)研修の1期生が卒業しました。生徒は村の女性で、栄養や衛生、子どもの健康に関する講義を受け、調理実習で料理の技術も磨いてきました。栄養の知識と技術を持った彼女らに、今度は「具体的に栄養を得る方法」を指導するため、ヤシオオオサゾウムシの養殖を提案し希望者を募りました。

この昆虫にした理由は、1kg育てるための初期費用が6ドル程度で、うちエサのランニングコストが2ドルと格安な点です。また、世話も簡単で週1回5本のバナナと水を追加するだけです。養殖の手順を効果的に伝えるため動画を作成し、上映しながら説明しました。やはり動画は伝わりやすく、早く理解してくれたようでした。

11月に5世帯でスタートしたパイロット農家は各世帯3つの養殖槽をセットし、12月には最初の収穫期を迎えました。うまくいかなくても200g以上、うまくいけば1300gの丸々とした幼虫を収穫できました。開始当初はそれほどやる気を感じていない様子でしたが、実際に育てて食べてみると美味しく、子どもが食べたがることで、モチベーションが喚起される好循環が生まれたようです。

エサのレシピはキャッサバとココナッツの皮を中心に、少量の配合飼料、米ぬか、糖蜜を使います。タケクでの養殖拠点では、成虫を村に供給する体制を整え、エサのレシピを最適化する実験をしています。現金を必要とする配合飼料を減らすため、キャッサバの葉やバナナの茎などへ代替して比較しています。今後キャッサバが自給できれば、コストゼロで養殖可能なエサへと改良し、より現金収入の少ない世帯にも導入できる予定です。

収穫後のゾウムシは、ひと晩バナナかサトウキビを食べさせてフン抜きすると風味豊かになります。炭火で焼き上げるとカリッ、ジュワッと香ばしい串焼きの出来上がり。パイロット農家からは、特にサトウキビの方は香ばしさが強く美味しいと言ってもらえました。次はキャッサバを育てる畑を確保し、村でのゾウムシの自給自足が目標です。キャッサバが自給できるようになれば、その葉を食べるエリサン(カイコ)の養殖や、エリサンのフンをタンパク源としてゾウムシのエサに再利用する複合農業といった派生も見えてきます。

今回のパイロット農家の成果について3分ほどの動画にまとめ、YouTubeのISAPHチャンネルで公開したところ、4週間で350回以上も再生されました。村で上映した際も好評で、私たちの活動が世界とつながっていることを実感してもらえたようでした。この動画はISAPHホームページ(https://isaph.jp/)でご紹介している、YouTubeのISAPHチャンネルからご覧になれますので、ぜひチェックしてみてください。

NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長 佐伯 真二郎
パーコーン村での最初の養殖指導の様子。 パイロット農家3世帯に養殖の手順を説明する動画を作成し上映した。

パークワイドン村のパイロット農家デーンさんと新人ラオス人スタッフのコーンサワン君。
デーンさんは最も養殖が上手で1300gも収穫できた。
バナナを食べさせたものとサトウキビを食べさせたものを比較するため炭火で串焼きに。

パークワイトン村のケオタさん。
バナナの茎を使うことを提案するなど、養殖のアイデアが豊富。
こちらは焼く前のもの。