本年5月より、JICA(国際協力機構)の支援のもと、3年半の草の根技術協力プロジェクト「母と子の『最初の1000日』に配慮したコミュニティー栄養改善プロジェクト」を開始しました。これを受け、プロジェクトを始めるにあたり具体的な活動計画を組み立てるため活動対象地域の状況把握調査を行いました。
プロジェクトの対象となるのは妊婦と5歳未満の子ども、そしてその母親。これを生後6ヶ月未満、2歳未満、5歳未満そして妊婦に分け、それぞれに対応した質問票を作成して対象世帯を訪問、聞き取り調査を実施しました。
調査項目は世帯構成や収入、家庭で栽培している作物や飼育している家畜、衛生や栄養などの知識、食べている食品、そして子どもの身長体重など多岐にわたります。そのため、日本から公衆衛生、小児医療、栄養、疫学の各専門家の方々に来ていただき、質問内容の作成から社会調査の方法について監修していただきました。みなさんアフリカを始めとした開発途上国での調査・解析のご経験を多くお持ちの方ばかりで、実際に対象者に相対して聞き取り調査をする際に気を付けなければならない事柄、起こりうる情報バイアス、正確な身体測定の方法など、実践的で役に立つ知識やスキルを多くご教授いただきました。
また、当地マラウイの大学から看護学の先生方にもご参加いただくことができました。専門知識もさることながら、農村での社会調査については経験豊富で、地域住民の目線に立った質問調査、ISAPHの調査スタッフたちの指導など、多岐にわたって活動してくださいました。
質問調査を行なっていた時の率直な感想として、多くの子どもたちは食べ物が限られているなりに育っている様でした。しかし同時に、低体重児も数例発見しました。深刻なケースも見られ、即座に県立病院へ搬送しなければならない例もありました。今回の測定は調査が本来の目的でしたが、危険な状態にあった子を発見、対応できたことは大きく、そして対象地域に実際にこの様な状況が存在することが明らかになりました。
この現状の背景として、母親たちの栄養や衛生に対する知識にも問題が見られました。もともと村人の大半が小学校を卒業するまで通っておらず、文字の読み書きができない人から基本的な科学的知識のある人までレベルは様々。例えば農村では上下水道が未整備で、水は各世帯で煮沸や薬剤で処理しないと飲料用にはできませんが、その知識が全くない人も見られました。トイレの後や料理の前には石鹸で手を洗う必要がある、といった基礎的な衛生知識がない人も少なからずいました。
食生活についての聞き取り調査では、過去24時間に食べたものを全て回答してもらう形で調査しました。その結果、ほとんどの人が日常的には主食と野菜しか摂れておらず、消費されている品目の数も極端に限られ、乏しい食生活が浮き彫りになりました。マラウイの農村では主食のトウモロコシの他にはおかずとして豆類、野菜、そして時々乾燥した小魚が加わる以外にほとんど食べ物が手に入らないという状況で、肉や玉子は滅多に食べる機会がありません。
これは単純に貧困だけが原因とも言い難い様で、調査対象者の現金収入の多少に関わらず、牛肉などは農村まで流通していないので、冠婚葬祭など人の集まる機会に、年に一度食べられるかどうかといった人が大多数でした。大半の地域が送電もなく、冷蔵・冷凍もできないので、食べられるものは大変限られてしまいます。
生きたまま流通するので冷蔵の要らない鶏肉や、保存の利く鶏卵や乳製品についても、日常的に摂取している人は限定的で、動物性タンパクの摂取状況は極めて低水準にとどまります。ほとんどの人は主食で空腹を満たしていさえすれば良いと考えていることが分かります。
野菜についても同様ですが、こちらは単に食べる習慣のある品目が限られていることが大きく、マラウイで一般的な葉野菜、トマト、タマネギ以外、例えばニンジンやピーマンの様なビタミンAの豊富な野菜は農村では全く消費されていませんでした。ビタミンAは小児の発育には欠かせない栄養素ですが、地域の保健局が小児を対象にビタミン剤を配布するのに頼っているのが現状です。これらは食習慣、ひいては食文化に関わる部分なので、栽培、販売経路、調理法など多角的にアプローチしていかないと定着は難しそうですが、改善の余地はあります。
そもそもマラウイの農村の人々は、商店経営などの副収入がある人を含めて、ほぼ全ての人が農業に従事しています。しかし、これは日本で言う職業としての農家とは随分異なり、畑の水やりや家畜の世話といった作業は、あくまで炊事洗濯と同じ様に日常生活に必要な家事の一部といった扱いで、現金収入の手段というのは副次的な位置付けになる様です。
まず、栽培している作物は主食のトウモロコシに偏っており、経済的な利益で言えば高付加価値な野菜や果樹類に劣ります。これは、ほとんどの人が自家消費用の主食を自給自足しているためですが、実際数年おきに干ばつでトウモロコシが不作になり高騰する年があり、それを考えると自給して確保しておきたいと言うマインドは頷ける部分もあります。
野菜類の栽培も自家消費が主な目的で、余剰分を販売に回すことはあるものの、始めから現金収入を目的として換金作物を栽培している世帯は非常に限られていました。中には調味料工場に卸す目的で唐辛子を栽培している地域などもありましたが、この様な例はとても珍しいケースです。
まとめると、マラウイの農村は貨幣経済がまだ未発達で、ほとんど現金収入がなくても生活できてしまう社会と言えます。実際、月の現金収入はゼロと回答する家も少なくありませんでした。
この様な状況を背景に、いよいよ本格的に地域での活動を開始します。現在は活動計画を作り始めたところですが、様々な方々にご協力いただき集めることができたデータを元に、どの様な活動ができるだろうかと考えています。今回明らかになった現状が、これから3年半の活動を通してどのように変化するか、楽しみでもあります。
ISAPH マラウイ 山本 作真
スタッフID・患者用ナンバーカードの導入
調査前に、目的やプライバシーの
取り扱いなどについて説明
母親への質問調査
栄養指導を行う聖マリア病院の足立医師
対象児の身長体重測定をする
カムズ大学ムハンゴ講師と現地スタッフ