ISAPH ラオス活動支援に関する派遣は平成17年12月(2週間)と平成18年2月(2ヵ月)と2回ありました。
第1回目の昨年12月の派遣目的は、ISAPH ラオスのコミュニティでの活動を支援するため、コミュニティの問題点を把握し、活動案を現地スタッフの芝田澄子さん、齋藤賢之さんと共に作成することでした。
はじめにISAPH ラオスの活動対象地域を説明したいと思います。カムアン県には9つの郡があり、そのひとつであるセバンファイ郡には7 つのSub-district があります。このうちの3つのSub-district、Kasi、Khanpe thai、Sibounhouaneg がISAPHの活動地域です。これら3つのSub-district には総計18の村(Kasi 3村、Khanpe thai 7村、Sibounhouaneg 8村) がありますが、ISAPHは郡病院から直接保健サービスを受けているノンボーン村とクワセー村の2ヶ村を除いた16の村を対象としています。今回、現地スタッフの芝田さん、齋藤さんと協議し、はじめはモデル村を選び、1村で集中して活動を実施し、それがうまくいけば、他の村へ展開していくのがいいのではないかということで合意しました。モデル村は現地スタッフの意見を取り入れ、コックトーン村を選びました。選んだ理由はISAPHの事務所があるカムアン県タケクから約39km、車で45分くらいで、アクセスがよく、また、村長の受け入れがよく、隣村のヘルスポストのスタッフやVHV(Village Health Volunteer) のやる気がある、そして村の大きさも500人程度でやりやすいのではないかという理由からでした。
コックトーン村の概要は、人口511人(94世帯)、低地ラオ族、識字率80%、予防接種拡大計画(EPI:Expanded Programme on Immunization)区分ではアクセスに1日以上かかるゾーン3、井戸17、村に電気は来ているがお金がかかるため全世帯には配線されていません。また、村にはテレビが4台、冷蔵庫は5つあります。しかし、トイレは村に数個しかありません。村には健康促進グループがあり、組織メンバーは村長、ヘルスポストのスタッフ、老人同盟メンバー、女性同盟メンバー、青年同盟メンバー、ヘルスボランティア、学校の先生、警察、村の軍関係者などです。しかし予防接種を受けなければならない児が受けていないなど、あまり保健活動が機能していないように感じました。
コミュニティでの一般的問題および保健サービスの問題を把握するために、村長、ヘルスボランティア、母親、女性同盟へ個別インタビューを、また、村の中心(キー)となる人達によるグループディスカッションを実施しました。村長自身が感じている村の問題は、米がない、水がないことであり、村のヘルスボランティアが感じている問題は、水が十分にない、トイレがない、伝統的産婆(TBA: Traditional Birth Attendant)がいないため、妊婦検診が村でできないことでした。村でキーとなる人達(村長、副村長、ヘルスボランティア、老人同盟のメンバー、村に駐留している警察および村の軍関係者、村の秘書、女性同盟のメンバー、青年同盟のメンバー等、総勢21人くらい)によるグループディスカッションの結果、出てきた村の問題は、①米がない、②水がない、③農耕器具がない、④ナンプー集落までの道が悪く雨季にはたどり着けない、⑤ナンプー集落には医薬品回転資金制度(DRF: Drug Revolving Fund)を行っていないため薬箱がない、⑥女性同盟からは家畜を飼いたい、⑦ VHV からはトイレがない、などでした。一般住民への個別インタビュー(8人の母親)から把握できた村の問題は、お金がない、食べ物がない、農作業の道具としてあるいはお金を得るための家畜がいないなどでした。
再度、村のキーになる人達に集まってもらい、出された問題に対して村として何ができるのかを3つの小グループ(8人くらい)に分かれて、ディスカッションをしてもらいました。皆で一番の問題を突き詰めると、やはり“米” がないのは事実であるという結論に達しました。“なぜ、米が足りないのか” “どのようにすれば米が足りるのか” について話合ってもらった結果、米が足りないのは、①益牛である水牛が病気で死んでしまったり、切羽詰って売って治療費にしたりして水牛がいないから、あるいは耕す道具(機械)がないから、②田んぼが小さいから、③十分な水が必要なときにないから、④家族(子ども)が多くて食べる量が多いことと働ける人が少ない、などでした。また、子どもが多く田畑に連れて行くと仕事ができないなどの意見も出ました。村人で何ができるのかは、“水牛を育てることはできる” でした。
村ではどのような保健サービスを受けているのか、個々の世帯を訪ねて、総計8人の住民(母親)に個別インタビューをしました。質問の内容は、住民にわかりやすいように“黄色いカード(EPI およびGrowth Monitoring Card)を持っていますか” “誰か来て注射をしたことはありますか” “VHV やヘルスポストの職員が何をやっているのか知っていますか、などの工夫をしました。また、“病気になった時、どうしていますか”という質問も同時にしました。結果は、村人は注射や蚊帳の再浸漬、村の清掃を村のお医者さん(VHV)や医者(ヘルスポストのスタッフ)から受けていると答えていました。ボランティアやヘルスポストの職員と言ってもわからず、名前を言うと誰だとわかるという状況でした。黄色いカードの意味は説明を受けたが忘れてしまったと答えていました。この村のボランティアは黄色いカードは母親がなくしてしまうということからポリオ、BCG、3 種混合の予防接種が終わるまで自分のところで管理して、それらの予防接種が終わっていれば母親に渡していました。体重測定もしているようでしたが、プロットはされていず、体重値を台帳につけて、それをヘルスポストへ報告していました。体重増加が思わしくない子供には栄養指導をしているようですが、母親もよく覚えていないなどから十分ではないと感じました。分娩は夫あるいは母親の介助による自宅分娩がほとんどでした。病気になったときは、ヘルスポストへいったり、郡病院や県病院へいったり、あるいは、プライベートのクリニックへ行っていました。また、子どもが多いので、ファミリープランニングも受けたいとの意見も出ていました。
村で把握した問題に対して、ISAPHとして何ができるのか、齊藤さん、芝田さんと協議した結果、以下のような活動案が出ました。
ISAPH の本来の保健活動としてVHV研修によりGrowth Monitoring と予防接種活動を強化する。
- VHVが黄色いカードにプロットができるようになる。Khanpei thai sub-district の7つの村の全VHVに黄色いカードの意味、プロットの仕方、栄養指導、衛生教育等の訓練を郡保健局母子保健課、ヘルスポストの協力により実施する。定期的なモニタリングもISAPHスタッフ、関係者により実施する。
- 既存の出生台帳を利用し、予防接種が必要な児の把握、予防接種の有無の確認により、確実にすべての児が予防接種を受けられるよう母親に声かけをする。
- VHVが村の健康委員会および婦人同盟の協力を得て、母親が予防接種および体重測定の必要性を認識するような広報活動をする。
生活する上での基本的なニーズに対するサポートを行う
- 井戸(対象はコックトーン村とナンプー集落) 現地のラオス人技術者(県保健局水担当者、井戸担当者)に調査を含めた協力要請をし、芝田さんが中心となり、村人および関係者と井戸の種類、井戸の数、場所、設置方法などについて詰め、現在齋藤さんが村人および関係者と設置に取りかかっています。
今後検討すべき生活する上での基本的なニーズに対するサポート案
- トイレ(対象はコックトーン村とナンプー集落) トイレに関しては村人の優先順位があまり高くない現実があることなどから今後、慎重に検討する必要があると思います。
- 家庭菜園(対象はコックトーン村とナンプー集落) 井戸ができ、水が確保できた時点で、少しでも食糧の足しになれればと思いますが、進めかたは関係者で検討する必要があると思います。
今後取り組むべき事項
- 郡保健局長と芝田さんが以前行った話し合いから、1歳以下、特に生後1ヵ月未満の児の死亡が多いことが懸念されました。死亡の主な原因としては、熱や痙攣が挙げられていました。今回、村での聞き取りの結果、ほとんどの分娩が訓練をうけていない介助者による自宅分娩であることから、死亡原因が分娩に起因するのではないかと推測されます。今後、この点について取り組んでいく必要があると思われます。
聖マリア病院国際協力部 齋藤 智子