母子保健サービスの利用推進事業の進捗報告 (分娩場所の意思決定に関わる要因調査報告) ~テルモ生命科学振興財団 医療貢献活動助成を受けて~
こんにちは、ISAPHラオス事務所の安東です。
2021年5月下旬にラオスに再入国してから10カ月が経過しました。新型コロナウイルスが流行し続ける中、たくさんの方々の協力と支援を受けてラオスの事業を遂行することができました。特に、テルモ生命科学振興財団様には医療貢献活動助成を通して母子保健事業の予算の一部を支援して頂きました。改めまして感謝申し上げます。
さて、新年度を迎えましたので、2021年度の母子保健サービス利用促進事業について、この1年間を振り返りたいと思います。私たちの活動目標は対象地域に暮らす住民が、ラオス保健行政(ナノーイトン保健センター)が提供する母子保健サービスの意味を理解し、妊娠と出産に関するサービス利用が増加することです。サイブートン郡保健局およびナノーイトン保健センターと連携・協働して、10村(人口:3,133人)を対象として、①保健センター利用者モニタリング、②アウトリーチ活動の支援、③村落保健委員会への研修、④モニタリング/評価会議の活動をしてきました。今回は、「①保健センター利用者モニタリング」に焦点を絞って成果と今後の課題についてご報告したいと思います。
この活動では、ハイリスクな自宅分娩の減少に取り組むため、分娩場所の決定に関わる要因について調査しました。具体的には過去3年間に出産した女性を対象に、フォーカス・グループ・ディスカッション(以下、FGD)を行い、分娩場所を選択した理由を聞き取りました。
過去3年間に144件の分娩(自宅61件、施設83件)があり、協力が得られた自宅分娩者54名、施設分娩者57名がFGDに参加し、分娩場所の決定に関連した要因について話してくれました。このディスカッションで発言された要因を社会生態学モデルの図にあてはめて分類しました。
(図)分娩場所を決定する要因分析~社会生態学モデルを用いて~
まず初めに、施設分娩を選択した要因(図の上半分)について見てみましょう。個人要因としては、母子の安全と心地良い出産のために病院で出産したという理由が抽出できました。家族間要因では、自宅分娩では家族の出産介助の負担が大きいからという理由や家族から病院で出産することを薦められたからという意見が聞かれました。コミュニティ要因では、この村では病院で産むことが当たり前だから病院で出産したという理由が挙がりました。最後に公共政策的要因では、病院での出産が無料になったことや病院までの道路が改善されたこと、病院スタッフへの良好な信頼関係が影響していることがわかりました。
次に、自宅分娩を選択した要因(図の下半分)について見てみましょう。個人要因としては、妊娠経過が順調だったことや過去の自宅出産で何もトラブルがなかったことを理由に妊娠・出産に関連した合併症のリスクを過小評価していることがわかりました。また、田植えや稲刈り時期などの農繁期には病院に付き添う家族や交通手段を見つけることが難しいため、施設分娩を希望している妊婦であっても自宅で出産しているという意見や両親の意思決定に従ったという家族間の要因が明らかになりました。さらには、妊娠異常や分娩遅延が見られない限り自宅で出産することが当たり前という村の伝統的価値観に従ったというコミュニティ要因も挙がりました。
ラオス政府の母子政策により施設分娩の金銭的・地理的な負担は軽減しつつあり、施設分娩率は少しずつ改善傾向にあります。しかし、今回の聞き取り調査によって、金銭的・地理的な負担以外の要因も分娩場所の意思決定に影響していることがわかりました。妊娠・出産に関連した合併症が自分にも起こりうると妊婦とその家族が認識して、母子の安全のために予防的に病院で出産しようという思いを家族全員が共有することが効果的だと考えます。病院で出産したいという思いが、金銭的・地理的な負担や農繁期の付添人/交通手段探しにおける障害を乗り越える原動力になると見込んでいるからです。では、病院で出産したいという思いをどのように育むのでしょうか。ISAPHの挑戦は今年度も続きます!乞うご期待!!
ISAPHラオス事務所 安東 久雄
ナコーン村で聞き取り調査を行うビライワン職員
ナヒー村で聞き取り調査を行うトンサムリット職員
ビタミンB1欠乏症を乗り越えて元気になったワンナーちゃんと安東職員