皆さんは、昆虫食という言葉を耳にしたことがありますか。最近の日本では昆虫を食べる機会が減っているようですが、戦前は栄養源としてよく食べられていた時期もあり、今でも中部・関東・東北地方を中心として文化、社会的に一定の役割を担っているようです。 今回は日本ではなく、ラオス農村部での栄養改善のために現在情報収集している食用昆虫についてご紹介したいと思います。
ラオスの母子保健プロジェクトでは、2008年12月から3年間フェーズ2として実施されたJICA草の根技術協力プロジェクト「生き生き健康村プロジェクト」において、母子の栄養改善を目的としたプロジェクトを実施致しました。活動地域の一部において乳児の死亡が多かったためその原因を調査したところ、ビタミンB1欠乏症による死亡が示唆されました。しかし栄養の問題は乳児ではなく、母親や家族全体の問題でもありました。フェーズ2では、健康教育の推進とお母さんへの個別指導などにより栄養状態の改善に努め、乳児の低体重率は23%から9%に、幼児のそれは58%から41%に低減しました。2012年からのフェーズ3においても健康教育を中心に栄養の改善に努めていますが、乳児においては9%から6%で推移し、幼児は依然30%台から40%の間に高止まり状態です。これが健康教育の限界であると考えています。
そのようなことから、フェーズ3では健康教育だけではなく食料の自給率の向上も模索しています。その中の一つが昆虫の養殖により栄養改善を図る案です。習慣は良しにつけ悪しきつけ生活の中で長年培われた歴史があり、一朝一夕に変えることはできません。特に食習慣は、栄養があるとか体に良いからといって、いきなり普段食べない食材を導入しても受け入れられないことが多々あります。そこが栄養改善の難しさです。そこで比較的よく食べられているもので、栽培や養殖が可能なものを検討してきました。その一つが食用昆虫です。ラオスの農村部では、コオロギ、イナゴ、タガメ、蟻の卵などが料理され、子どもから大人まで好んで食しています。2013年5月には国連の食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨する報告書を出し、栄養価が高く、養殖の効率もよい持続可能な食料として昆虫食は世界の注目を集めています。
ISAPH東京事務所での勉強会の様子
コオロギの炒めもの
ISAPHは現在、食用昆虫科学研究会という日本で唯一食用昆虫を研究している学術的な機関にご協力をいただき情報収集を行っています。同研究会は、昆虫食に関する多面的な研究を行い、研究者の育成に努めるとともに、科学的理解を深めるための社会教育の推進を図ることを目的に活動しています。昆虫食の文化からその経済性、栄養、そして美味しさの研究を行い、それらを広く一般に情報発信している団体です。年に1回実施されている科学の祭典「サイエンスアゴラ」に毎年参加し、広く一般を対象に啓発活動を行っており、その実績が認められ2013年12月には優れた団体に贈られるサイエンスアゴラ賞を受賞し、更に191もの出展団体間による投票でも1位に選ばれています。このような研究会にご協力をいただき、今後はラオスにおけるコオロギやイナゴなど食用昆虫の養殖の可能性を探り、栄養改善につなげていきたいと考えています。
ISAPH事務局 磯 東一郎