2005年から開始された母子の健康増進を目的としたISAPHと聖マリア病院によるラオス国カムアン県セバンファイ郡での活動は、2015年12月をもって幕を閉じました。
この10年余りの道のりは紆余曲折の連続でした。開始当初はISAPHと聖マリア病院の支援をラオス側のカウンターパートに理解してもらえず、よく頭を抱えたものです。特に苦労したのは、カウンターパートの業務に対する意識を育てることです。人材育成を基本とする国際協力の最終的な課題は、技術よりむしろカウンターパートの意識改革であるといっても過言でありません。
私たちが重視してきたことは、相手国が必要とする技術的な支援を行うとともに、持続発展性を担保するため、相手国の保健医療システムを尊重し、保健省が定める保健政策の中で、体制の強化や向上を図るというものです。5歳未満児と母親の健康改善はラオス政府の最重要課題であったことから、「お母さんに健康な赤ちゃんを産んでもらい、元気に育つように」という目標を掲げ、地域住民の健康増進を司る郡保健局の職員をカウンターパートに、住民を対象とした母子保健活動を開始しました。
ところが活動を開始すると、郡保健局の職員から「昼食を出してほしい」「交通費が出ない」等いろいろな不満があがり、それに対し否定的な回答をすると、その返事が「自分たちはこんなにISAPHの活動を支援しているのに」という文句でした。郡保健局が行うべき活動を支援しているのは我々です。彼らには、自分たちがなすべき役割の認識がありませんでした。そんなカウンターパートの態度に大きな変化が見られるようになったのは、活動開始から3年が過ぎた頃でした。活動に参加する意義を住民が理解しはじめ、参加者が増えてきたことが、郡保健局カウンターパートの心の刺激となったようです。
当初住民は、郡保健局職員や村長から参加するよう言われたから参加するといった消極的な姿勢でした。そこで、妊産婦健診の結果や乳幼児の発育状況に問題が見られた者への健康指導を強化し、健康教育においても「分かり易く、興味が持てる」教育内容の実践に努めた結果、母親の姿勢が変わってきました。農繁期でも朝早くからお母さんと子どもが来るようになり、ロールプレイやゲームを盛り込んだ住民参加型の健康教育にも率先して参加するようになったことで、自分たちが何のために活動を行っているのかを郡保健局職員は理解し、住民との活動に正面から向き合うようになりました。何より、住民たちが郡保健局の職員を信頼するようになり、笑顔で活動に参加する住民の姿が、彼らの意識を変えていったと確信しています。そして、このような活動の積み重ねにより、1歳未満児での低体重児率は2009年の23.4%から2014年には7.6%に、1歳以上5歳未満児での低体重児率の同年比較では、57.6%から32.9%まで減少しました。妊婦健診への参加率は常に90%を超え、施設分娩率も2010年の26%から2014年には50%と増加しています。また、ビタミンB1欠乏による乳児死亡は2013年以降見られていません。この成果は、ラオス保健省も高く評価しています。これは住民と郡保健局職員の意識の変化がもたらした成果です。
これまでのセバンファイ郡での活動経験に基づき、新たにサイブートン郡での活動を2016年から実施することを決めました。郡保健局からの情報とISAPHの事前調査では、妊産婦死亡率及び乳児死亡率がまだ高く、5歳未満児の栄養不足、感染症の疑いによる乳幼児の死亡がある地域です。
この10年間のセバンファイ郡での活動におけるカウンターパートや住民との信頼関係の構築は、これまで活動に携わってきた職員全員の努力の賜物だと思います。このような信頼関係をこれからも大切に、新たなサイブートン郡での活動に臨みたいと思います。
ISAPH 事務局
お母さんと子どもたちの笑顔のために