平成25年9月1日~7日に、保健医療経営大学と聖マリア学院大学のスタディツアーの受け入れを致しました。参加者の方からいただいた報告を以下に掲載します。
ISAPH 事務局
ISAPHのラオスでの現地活動を見て感じたこと
この度ISAPHのスタディツアーに参加させて頂き、その中で郡保健局局長の以下の話が最も心に残りました。「以前この地区では妊産婦や乳児の死亡が多かったが、ISAPHが入った2005年から他地区と比較すると妊産婦や乳児の死亡と低体重児が減った」
今回ISAPHのモバイルクリニックに同行し、乳幼児の体重や身長測定、予防接種、母親への栄養指導などの健康改善活動をラオス人職員と共に直接日本人が同行する事によって、現地の人々の共感や協力を得る事が出来るのではないかと感じました。母親の食物タブーがある事、母親が仕事に出てしまい乳児の世話を祖母らがすることが多い事、それによって乳児に十分に栄養のある母乳を与える事が出来ず「モッカオ」というもち米を食べさせてしまう事、結果として、乳児がビタミンB1欠乏等により亡くなってしまう時があるという現実も考えさせられました。人間は奇妙な信念に固執しないではいられない存在でもあり、日本でも危険な風習が未だに残っているので現地の人の気持ちは分かる気もします。しかしそういった中で、ISAPHの地道な努力によって乳児死亡率が低下していると評価されている事がとても嬉しく感じました。今回ラオスの医療や母子保健活動の現状に触れる事が出来て有意義なものとなりました。ISAPHの皆様に大変感謝致します。本当にありがとうございました。
モバイルクリニックでの身長測定の様子
ラオスで学んだこと、感じたこと
海外フィールドワークでは、ラオスにてカムアン県保健局、県病院、県公衆衛生看護学校、ISAPHの村落コミュニティーでの母子保健活動などの見学を行いました。
セバンファイ郡の7地区のうち、ISAPHは3地区(シーブンフアン、カシ、カンペ―タイ)を支援しており、今回はシーブンフアン地区のドンマークバー村のモバイルクリニックに同行しました。乳児の体重や身長の測定、予防接種、妊婦検診、健康教育が行われていました。写真は体重測定の様子です。村の人達は私の想像以上に集まっていて、協力的だと思いました。
ISAPHのラオス事務所ではスタッフの方からお話を伺いました。私が一番印象に残っている話は、田舎の方では母乳が乳児の死亡の原因になる、妊婦は塩ともち米、干したかにや魚以外を食べると死ぬという迷信や、産まれたばかりの赤ちゃんにモッカオというもち米を食べさせる悪習慣があるというお話です。田舎に住んでいるお年寄りはこのような迷信を本気で信じており、それが健康に悪いということを分かってもらうことが大変だと聞きました。どんな支援を行っても現地の人の意識を変えないことには何も始まらないと思いました。また、日本の残飯は年間7000万人の食料(東京ドーム60杯分)に相当するというお話を聞き、驚きました。日本は恵まれている国だということを再認識するとともに、格差の大きさを知ることができました。
今回の海外フィールドワークでは今まで自分が知らなかった世界を自分自身の目で直接見ることができ、本当に良い体験ができたと思っています。
体重測定の様子
活動の難しさと希望を感じたスタディツアー
今回、フィールドスタディⅡ(海外看護学実習)の一環としてラオスを訪れ、ISAPHの活動見学をさせていただきました。私はスタッフの方々の説明やモバイルクリニックの見学から人を動かすこと、変化を生み出すことの難しさを学びました。たとえば、モバイルクリックで訪れた村で、郡保健局スタッフによるデング熱についての健康教育がありました。私は住民の様子を見ていて、真剣に聞いているお母さんもいれば、そうでない方もいるなと感じました。言語が同じであっても対象によってどう伝えるのか、どういう方法でするのかを考えなくてはならないのだと感じました。私たちも健康教育の機会をいただき、手洗いについてお話しました。実習やフィリピンでの健康教育の経験はありましたが、やはり本当に伝えたいと思うと言葉の壁や方法の違いがあり、一方的にならないように住民と会話しながら繰り返し教育していくことの大切さを学びました。
また、ISAPHの活動地域には、ユーファイ(伝統的な褥婦ケア)やカラムキン(食物タブー)と言われる独自の文化や慣習があるそうです。そのような背景を分かち合いながら、少しずつ変化を生み出すことは、患者の背景をアセスメントし、今後どのように病とともに生活するのか患者や家族と一緒に考える看護と同じであると感じました。そして、住民が健康を享受できていると認識するまで、確実にひたすら繰り返して健診や教育を実施している様子を見て、住民や県・郡と協働しているのだと実感することができました。
ISAPHラオス事務所の方々や保健局の皆さん、村の人々など多くの方のご協力のもと素晴らしい経験を得ることができました。心から感謝しております。私は今後看護師となり、いつか海外で働きたいと考えています。その時、ISAPHの皆さんのように住民のそばにいつつ、郡や県、やがては国全体の人々をつなぐような看護活動をしたいと思っています。
健康教育でデング熱について説明する郡保健局スタッフ
ラオスで継続支援するためには
ラオスでのISAPHの活動の中で印象に残ったのが、私たちも実習で参加した地域住民に向けての健康教育活動でした。教育教材であるポスターやパネルシアターが地域の生活に即した漫画タイプのものなど、受け手の興味・関心を惹きつける、はっきりした色合いの目を引くものでした。健康教育は地域住民が前傾姿勢で集中して聞いている様子でした。表情は笑顔で、楽しんで健康教育を受けていると感じました。そして、楽しんで健康教育を受けられているからこそ継続して実施が可能になり、地域住民の理解へつながっていくのだと感じました。
食物タブーの問題では、地域共通の条件ではなく各家庭により食物タブーの内容が異なるといった現状を知り、教育を実施するうえで時間や労力がかかるため、理解につながるのが難しいと思いました。ISAPHの健康教育活動を見て、「なぜしてはいけないのか」の根拠を伝えることが行動変容につながると感じました。
乳幼児身体測定において、必要最低限の物品が揃っていてスムーズな身体測定が実施でき、短時間ですむことで乳幼児も泣くことがなく、親の労力もかからないため、継続した身体計測が実施できているのではないかと考えました。母親たちの交流の場にもなっており、ストレス発散や子育ての問題も相談しやすいと思いました。
乳幼児身体測定時の様子
ISAPHの活動見学を終えて
今回ラオスにおけるISAPHの活動を見学させていただき、印象的なことが二つありました。
まず一つ目に「長期間のアプローチが必要である」ということです。これは、ISAPHの活動についての説明をしていただいている際に、伝統的な慣習があることを知ったときに強く感じました。その理由としては、現地の人はユーファイや食事タブーを信じて行っていますが、実際にはその行為によって母子共に栄養不足になることや、母乳が出なくなったり、産後の体調が悪くなったりすることを説明してもなかなか改善はしないという現実があることを知ったからです。そして、その現状に対してのアプローチ方法としては、伝統的な慣習を否定するのではなく、繰り返し長い時間がかかっても、健康教育などによって知識を普及させて地域の人々の行動変容を促していくことが大切であると考えます。
二つ目には「モバイルクリニックを現地のスタッフと共同で定期的に行うことの必要性」についてです。ISAPHの活動地域において行われている健診によって妊産婦、乳幼児の健康状態を把握することができ、このことにより早期対処ができることを学びました。そしてモバイルクリニックは主に、現地のスタッフが行っているところを見て、今後も継続して行っていけるような介入を行っているのだと感じました。
このようなISAPHの活動を見学することができて、その地域の慣習に関わる介入はとても難しいことであると実感しました。やはり今まで信じてきたことを変えるのはとても不安なことで、周囲の人々とのつながりが強く年長者の意見を重んじる人々であるため、今すぐに行動変容することは難しいと考えます。だからこそ、長期的なアプローチが必要であることも学びました。そしてISAPHの活動期間が終了しても、継続的にアプローチしていくことができるように現地のスタッフに対する教育も、必要な事業の一つであることを学ぶことができました。