NPO法人ISAPH(international support and partnership for health)では、2005年7月よりラオス中部のカムアン県において成長モニタリングを中心としたコミュニティ活動を行ってきた。活動の実施中、特定の地域で乳児死亡が多発していることを知り、その死因の多くがビタミンB1(VB1)欠乏によることが示唆された。そこで今回、母親の血中および母乳中のVB1濃度測定を含め栄養を中心とした世帯調査を通じて、母親のVB1欠乏の有無とそれが乳児死亡にどのように関与しているかを明らかにするために、聖マリア病院、東京女子医科大学、タケダライフサイエンスリサーチセンターの協力を受け調査を行った。
ISAPHが活動しているカムアン県セバンファイ郡のうち、2005年度の乳児死亡率が31.6%と最も高かったシーブンファン地区をⅠ群、乳児死亡率が4.2%と最も低かったハートカムヒアン地区をⅡ群とし、それぞれの地域において1歳未満児をもつ25世帯の計50世帯を対象に比較調査を行った。調査は2006年10月30日から11月2日までの4日間に8つのモジュールからなる質問票を用いて戸別訪問でインタビューを行い、同時にVB1測定のために母親から血液および母乳をそれぞれ3ml採取した。採取された検体は直ちに酸と電動撹拌し、冷蔵保存で日本に輸送し、タケダライフサイエンスリサーチセンターにおいてVB1の定量を行った。
ラオスでは、主食となるもち米の調理法やthiaminase(VB1阻害酵素)を含む食品の摂取、出産後の食物タブーなど母親にVB1欠乏をきたす理由は多い。今回の2群間の調査結果から、母親のVB1レベルがⅠ群で有意に低いことが分かり、母親のVB1レベルが乳児死亡率に直接関連していることが示唆された。また、Ⅱ群においても母親のVB1レベルは低く、ラオスの広い地域でVB1欠乏が存在する可能性が高いことが分かった。今後、VB1欠乏がどのように関与して乳児死亡につながるのかを検討するとともに、乳児心臓脚気によると思われる乳児死亡の多発を防ぐための有効な対策を早急に立てることが重要である。
尚、ラオスにおけるVB1調査結果については、平成19年3月3日の第25回日本国際保健医療学会西日本地方会に発表を行った他、同年4月「ラオス国カムアン県における栄養実態調査報告-母親の血中および母乳中のビタミンB1測定を中心に-(第1報)」として報告書にまとめた。
ISAPH LAOS