日本ラオス研究会に出席して
3月下旬に名古屋大学で開催された日本ラオス研究会に出席しました。この研究会は、学術的にラオスを研究している人たちが集まり知見を共有しようというもので、昨年から始まった新しい会です。参加者の顔触れも大学や研究機関が多く、一人の発表者当たりの持ち時間も質疑応答の時間を入れてではありますが、50分と非常に長いものでした。単に研究の成果を発表するものではなく、現地の文化や習慣について調査、研究の結果得られた知見について意見を交換しようというのが主旨でした。とりわけ文化や習慣に関する分析については、研究者ならではの調査や分析手法で解釈した内容が多く、異文化の科学的なとらえ方を示されたようで興味深いものでした。
今回私は、ISAPHのラオスでの活動を通して発見した、ラオスの保健衛生事情の問題、カラムアハーンやタブーなどの地元民の習慣、それらの習慣との関りで発生しているラオスの乳児の栄養問題とビタミンB1欠乏症の問題、更にこれらの問題の改善を目指して取り組んだ保健プロジェクトについて、これまでの経緯をかいつまんで報告しました。研究会参加者の中には保健関係者が少なかったため、単にビタミンB1欠乏に対する取り組みだけでなく、ビタミンB1欠乏と地域住民の食習慣との繋がり、食習慣が健康に及ぼす影響、食習慣や日常習慣に対するISAPHの介入手法などについて、現場での活動風景の写真を交えて説明を行いました。
私の発表に対して、研究会に参加していた方から様々な意見を頂きました。「長年ラオスについて研究しているが、住民の生活習慣が栄養、病気という保健にどう影響しているのか、という事についてはあまり考えた事が無かった。今回の話で事情が分かった」という意見や、「自分たちは単にラオスの一断面を研究しているだけなのに、ISAPHは問題を分析して、それを変えようと介入活動をしている点が印象深かった」などといった言葉を頂きました。ラオス研究の経験が長いにもかかわらず、現場に介入して現状改善に取り組んでおられる団体は少ないようで、自分たちの研究もISAPHのようにラオスの状況改善に繋がるような形にしていく事も、もっと考えていくべきであったとの意見が出されました。本研究会の主催者によると、「長年、自分たちがラオスで見聞きし、積み重ねてきた知見であってもそれを他の団体と共有して活かす場がなかった。そのような現状を見直し、ラオスで仕事をしている人たちが個々に持つ情報を共有し、自分たちの活動をお互いに補完、連携し合える場、あるいは関係者を繋ぐ場としてこの研究会が機能できたらと考え、立ち上げた」という事でした。
研究会後の懇親会では、ラオスで個別に行われている様々な研究の成果を多くの人と共有し、医療、学校教育関係者や農業、林業、食糧など複数の分野の日本人研究者と連携して、ラオスの現状改善の為に包括的なアクションが実施できれば、ラオスに面白い変化を起こせるのではないか、という考えで盛り上がりました。
今回の研究会に参加して、日本人のラオス研究の積み重ねがいかに深いものであるかを感じる事ができました。ISAPHのラオスでの活動でも他のラオス研究者、研究機関と連携する事が十分可能である事もわかりました。今後のISAPHの活動では、広く他の研究者、研究機関に支援・協力を呼びかけ、より質の高いアプローチを展開していきたいと感じさせられる会でした。
聖マリア病院国際事業部部長・ISAPH理事 浦部 大策
産後の一定期間を炭のそばで過ごすラオスの習慣「ユーファイ」は食事制限や行動制限を伴う