母子保健サービスの利用推進事業の進捗報告(アウトリーチ活動の支援と母子保健指標の変化)

こんにちは、ISAPHラオス事務所の安東です。

私たちの活動目標は対象地域に暮らす住民が、ラオス保健行政が提供する母子保健サービスの意味を理解し、必要なときに母子保健サービスが利用できるようになることです。その目標達成のためにISAPHは、ラオス保健省の「包括的母子保健サービス戦略」に従って、2020年10月より、各村で月に1度、妊産婦と5歳未満児を対象とする母子保健サービス(健康教育、妊婦健診、成長モニタリング、産後健診、予防接種、家族計画)に協力、技術的支援をしてきました。地域住民が村の中で母子保健サービスを利用できるように支援を行った結果、以下の表にあるような変化が見られました。

 4回以上の妊婦健診受療率は25%(2019年度)から53.8%(2021年度)に向上しましたが、2022年の国家目標である77.0%には遠く及びませんでした。この原因としては、初回の妊婦健診を受療するタイミングが遅いことが考えられます。ラオス政府のガイドラインでは、妊娠第1期(0週~12週)に初回の妊婦健診を受療するように推奨していますが、活動地の妊婦さんたちは平均で妊娠約15週になって初めて妊婦健診を受療していました。そして2回目以降の妊婦健診の予約日になっても姿を現さないことがありました。予定していた妊婦健診を受診しなかった妊婦さんを追跡して、妊婦健診を受療してもらうように家庭訪問を実施することで、改善は見られましたが、国家目標の達成には至りませんでした。

 施設分娩率は2019年の51.0%から76.9%まで改善することができ、2022年の国家目標も達成することができました。2025年までには施設分娩率を80%にするという国家目標の達成に向け、今後は自宅分娩を選ぶ傾向にある経産婦に重点を置いて、妊娠・出産に起因する合併症のリスクを想起させて、安全な出産のためのバースプランを立てるに注力していきたいと考えています。

 産後健診率に関しては、1件1件、家庭訪問を実施することによって産後1か月以内に全ての産婦と乳児に対して健診を実施することができました。一方で2021年度の国家目標を見ると、産後24時間以内の産後健診率55.0%を目標に挙げています。現在は病院で出産した場合であっても、産後24時間病院に滞在しないお母さんも目立ちます。このような母子が最低でも24時間病院に滞在してもらうことで、初回の産後健診を24時間以内に受療できるようにしたいと考えています。

 定期予防接種完遂率に関しては1歳までは91.0%という高い結果を得ることができました。しかし新しい国家戦略では、2歳までの定期予防接種完遂率に変更になっているので、引き続きモニタリングを継続していきたいと思います。

 以上のように、アウトリーチ活動中の毎月の健康教育を通して、住民のヘルスリテラシーが向上したこと、ヘルススタッフと住民の間の信頼関係が構築されたことによって、プロジェクト開始前と比べて、住民が自分の健康を守るために母子保健サービスを利用するようになってきたと考えられます。以前であれば、子どもの具合が悪いときは、アウトリーチ活動を欠席して、自宅に留まっていたようなお母さんが、子どもの具合が悪い時でもアウトリーチ活動に参加して、医療スタッフに病気の相談している場面を見る機会が増えてきました。その結果、2021年度は、年間の5歳未満の死亡件数が2019年度の6件から2件に減少という成果を挙げ、予防可能な疾病・死亡の回避に繋がったと思います。今後は、ISAPHの支援がなくなった後のことを視野にいれて、サービス提供側と利用側がお互いに理解を深め、持続性のある地域の健康づくりに寄与していきたいと思います。具体的には、地域住民の「自助」とコミュニティの「互助」と現地政府による「公助」の強化によって、ポジティブな健康希求行動が定着し、ISAPHの戦略がラオス政府の政策に組み込まれることを目指してアドボカシー活動にも注力していきたいと思います。

 

ISAPHラオス 安東 久雄

(表)母子保健サービスの利用状況の変化

アウトリーチ活動中に妊婦健診を受療している様子

郡病院で出産した夫婦の笑顔

産後健診の家庭訪問で完全母乳栄養を指導いている様子