マラウイ国ムジンバ県におけるJICA草の根技術協力事業 母と子の「最初の1000日」に配慮したコミュニティー栄養改善プロジェクト

マラウイは世界最貧国の一つで、ユニセフの統計によれば今でも乳幼児の半数が栄養障害状態にあると言われています。貧困が栄養障害の原因の一つであることは間違いないでしょうが、農村部のマーケットには豊富で多様な食材が溢れており、貧困だけでは説明できない状況でした。農民の日常の食生活をのぞくと、いつも同じようなメニューの食事をとり、炭水化物に偏った食事をしていました。つまり、マラウイの乳幼児の栄養障害は、食材が手に入らないのではなく、栄養摂取のバランス不良に起因して発生している部分が大きいのではないかと考えられました。そこで我々は、JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業から資金を得て2013年から3年間、ムジンバ県で母子保健プロジェクトを実施しました。地元に食材はあるのですから、このプロジェクトでは「教育」を手段に、既存のPHC(Primary Health Care)政策を栄養障害の予防活動と治療活動の2面に分けてPHC活動の強化を図りました。予防活動では、定期的に実施されている成長モニタリングの機会を使って、栄養障害児の出現監視を行い、治療活動では発育の悪い児をマラウイ国が実施している治療プログラムに繋ぎました。

この先行プロジェクトでは、教育を通して乳幼児の栄養障害の児を減らすという成果は達成できましたが、まだ十分な改善と言える段階ではなく、多くの乳幼児が栄養障害状態に置かれています。特に、生後半年から2歳くらいまでの離乳期にある年齢の児の栄養障害発生率が高いままでしたが、これは教育だけでは栄養バランス不良を改善できていない事を示唆しているものと考えられました。前回のプロジェクトの調査では、マラウイの児は蛋白質、脂質の摂取量が少ないという結果がでています。しかし、蛋白質摂取の為に家畜を食べようとすると、冷蔵庫が無い(電気が無い)ので毎回全部の肉を食べてしまわなければならない、脂質を摂ろうにも油は高い。結局、蛋白質や脂質の豊富な食材を簡単に手に入れられるような環境が無いと、知識を得てもそれを実践する事には限界があると感じました。

このような先行プロジェクトの知見を踏まえて、家庭での蛋白質や脂質の豊富な食材の確保を盛り込んで、ISAPHは聖マリア病院と共同で新規にプロジェクトを提案しました。それが採用され、2018年5月、JICAの草の根技術協力事業から資金を得て、マラウイ国ムジンバ県にて約3年半のプロジェクトを開始する事になりました。今回のプロジェクトでは農業の専門家に参加してもらい、自宅での多様な作物の栽培導入を促進する予定です。また、家畜や養蜂など多様な栄養源を確保する事も試みる予定です。子どもたちの栄養摂取のアンバランスを改善するのに必要な食材へのアクセスを改善し、多様な食事の摂取を促す事によって乳幼児の栄養改善が図れるか、というのが今回のチャレンジです。今回のプロジェクトで成果が出せれば、マラウイの栄養改善活動において非常に有用な手段を提示できると期待しています。

聖マリア病院国際事業部部長・ISAPH理事  浦部 大策

新プロジェクトの発足と、それに伴う関係機関との調整

2018年5月より、JICAの支援を受けて、ムジンバ県マニャムラ地域での新プロジェクトが正式にスタートし、それに先立ちムジンバ県の各行政部門長からなる県実行員会を発足しました。座長の県保健局長以下、公衆衛生部門責任者、栄養部門責任者のほか、県庁計画開発部、農業局、地域開発局、社会福祉局などの部門長がメンバーとなり、プロジェクトを運営する体制が固まりました。

プロジェクトの開始に伴い、今期は県行政委員会や県栄養委員会、県農業事務所やマニャムラ保健センターなど各部署へ、ISAPHや新プロジェクトの概要説明に出向く機会が多くありました。各委員会は開催が不定期であったり予定が流動的であったりして、参加自体がままなりません。また、マラウイの習慣として招集者が出席者にランチ代を支払わないと人が集まらない、開催まで漕ぎ着けても会場が停電で電子機器が使えないなど、単に会合をセッティングし説明するだけでも煩雑な調整が必要でした。

しかし、ムジンバ県内の各行政部門の理解を得られた事は、今後のプロジェクトをスムーズに進行する為には必要不可欠でした。とりわけ今回のプロジェクトでは栄養改善の一環としてコミュニティー菜園を通して食料生産を行う計画である為、農業局との会合が持てた点は大きかったと思います。今までISAPHの活動は保健・栄養教育の分野に特化していた為、地域の農業部門関係機関とは接触がほとんどありませんでした。農業局長が招集した会合に出席すると、農業局側からはISAPHが対象とする予定の作目などについて質問があり、栄養改善の観点から豆類や家畜家禽に重点を置く事を説明すると、農業局所属の普及員との協力と、ノウハウの共有を申し出てくれました。

5月には、マニャムラ内で活動を開始するパイロット地域として4村の選定を完了し、県実行委員会で承認・決定されました。初年度はこの4村から介入を始め、次年度以降で対象地域を拡大させて行く予定となっています。

早速、4村における妊婦、授乳中の母親、ならびに5歳未満児の対象世帯リストの作成を開始しています。元来マラウイには戸籍に相当する正式な人口データが存在せず、地域内に誰が、何人居住しているかといった確かな情報がどこにもありません。引越しや国外への出稼ぎが盛んな地域で人口の出入りが激しく、出生や死亡の届け出もない為、自分達の活動対象としている人がどれだけいるのか、正確な数を答えることは誰にもできませんでした。これを村長や地域開発委員会、地域に精通している保健ワーカーなどの協力を得て作成しています。現在、データが集まりリストが出来上がって行くのを目の当たりにし、地域の実像が見え始めてきたと同時に、活動開始に向けた実感が高まっています。

ISAPHマラウイ  山本 作真

ISAPH現地人スタッフによる、パイロット村での
対象世帯リスト作成の様子

県農業局にて局長以下、各部門責任者と会合後に