ラオス母子保健プロジェクト“ラオスのお産事情”

ラオスの保健医療の課題の1つに、医療施設へのアクセスの困難さが挙げられます。私たちが活動している村も赤土のでこぼこ道で、雨期にはさらに移動が困難になります。また、村によっては医療施設までの距離が遠く、歩いて2時間以上かけてやってくる村の人たちもいます。このような不便なアクセス状況から、先月悲しい出来事が起こりました。

妊娠9ヶ月の初産婦さんが、お産のため川を越えて2時間近くかかるヘルスセンターへ向かっていました。しかし途中で、道中の激しい揺れが刺激となり、車内でお産に至ってしまいました。さらに強度の臍帯巻絡(臍帯が胎児の体の一部に巻きついている状態)があり、荷台車に居合わせた家族はどうしたらよいか分からず、自宅へ引き返しました。もし臍帯を切断し、その後の対処が適切でなければ、大量出血し、母親が命を落とすかもしれないと危惧したためです。このときの家族の判断は、適切なものでした。しかし、残念ながら児は命を引き取りました。

今回の出来事を受けて、僻地でのお産の厳しさを改めて痛感しました。ISAPHが支援している地域には伝統的産婆はいませんが、お産に携わってきた女性はたくさんいます。自宅でお産をしている村の人たちも、自分の母親や祖母、近所の女性たちに助けてもらっています。今回のような症例を繰り返さないためには、アクセスの整備がなんといっても重要ですが、医療施設へ来るタイミングや医療施設で待機できる体制、村の保健ボランティアとの密な連絡、また、医療施設までお産に携わったことのある村人に同行してもらったり、途中で分娩に至った場合を考慮して必要物品を持参したりするなど、できるところから対策していかなくてはならないと感じました。

ISAPH LAOS 田川 薫

村とヘルスセンターを隔てる川
妊婦さんは船で川を渡り、そこから車でヘルスセンターを目指した

車で川を渡るには橋を架けなければならない